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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
跋章 終焉
301/302

脱却の伝承

登場人物

介象かいしょう…………方士。干将かんしょう莫邪ばくや眉間尺みけんしゃくの三剣をびる。萬軍八極ばんぐんはっきょくの極主。

元緒げんしょ…………方士。介象の師であり、初代の介象。

娄乾ろうかん…………剣の手練者てだれあやかしの虎憑耳こひょうじしもべに持つ。曳影えいえいの剣をびている。萬軍八極の壱。

鄒兌すうだ……医のの生娘。妖しの月兔げっとを僕に持つ。萬軍八極の弐。

藺離りんり…………槍の手練者。妖しの火鼠かそを僕に持つ。萬軍八極の参。

韋震いしん…………双短剣の使い手。妖しの雷公らいこうを僕に持つ。萬軍八極の肆。

裴巽はいそん…………げきの手練者。妖しの飛廉ひれんを僕に持つ。萬軍八極の伍。

欧陽坎おうようかん…………矛の手練者。妖しの短狐たんこを僕に持つ。萬軍八極の陸。

花艮かごん…………まさかりの使い手。妖しの山操さんそうを僕に持つ。萬軍八極の漆。

丘坤きゅうこん…………美質な弓の名手。妖しの狻猊さんげいを僕に持つ。萬軍八極の捌。

 その次の日――。

 肩に亀を乗せている。娄乾ろうかんの老母の墓石の前にかしずいていたのは、漆黒の襤褸ぼろまとった偉丈夫いじょうぶだった。

 介象かいしょうは、すっくと立ち上がると、後ろにたたず娄乾ろうかん裴巽はいそんの前に身を運んだ。

「世話になったな、娄乾、裴巽」

「往かれるのですか……?」

 娄乾は、八字髭はちじひげを備えた面貌めんぼうを曇らせた。

「ああ。俺たちには、次の旅が待っているからな」

「困りごとがあれば、お呼び下され。私も裴巽も、必ずや馳せ参じまする」

 娄乾に同調したように、隣に侍る裴巽がうなずいた。

い。老母に恥じることのないよう、更に家を大きくせねばならぬぞ、娄乾。そして、裴巽よ、お主はまだ若い。軍人として生きることが全てではないぞよ」

「はっ」

 娄乾と裴巽は、介象と元緒にかしこまって拱手きょうしゅした。

「智の人、娄乾。お前の判断に多くたすけられた。礼を云う。仁の人、裴巽。お前の親愛の情、優しさ、思いやり、慈しみの心は、唯一無二。再会をたのしみにしている、同志よ」

 介象は、整然ときびすを返した。ふらと立ち寄ったところから帰るように、娄乾のやしきから姿を消した。

 その背が見えなくなると、娄乾は隣の裴巽に聞こえるようにぼやいた。

萬軍八極ばんぐんはっきょくの技を次代に伝承する必要はない。そのかせは、我が前に置いて往け。己が思うままに生きてみよ――だったか?」

「はい。何年後、何十年後、何百年後、いつ、再び蚩尤しゆうが現れるかもわからないというのに、介象さまは確かにそう云われました……」

「救われた。介象さまの言葉で、我ら八人の肩の荷は下りたと云える」

「ですが、次なる蚩尤は、更に強大になっているかもしれませぬぞ。その時こそ、萬軍八極が必要になるのでは?」

 娄乾は、てのひらを口許に当てて思案した。

「……いや。……その時には、介象さまも更に力を付けておられるだろう。己に枷を掛け、代わりに我らを開放してくれたのだ。強くなるためにな……」

「何だか、寂しいですな……」

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