脱却の伝承
登場人物
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。萬軍八極の極主。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
娄乾…………剣の手練者。妖しの虎憑耳を僕に持つ。曳影の剣を佩びている。萬軍八極の壱。
鄒兌……医の徒の生娘。妖しの月兔を僕に持つ。萬軍八極の弐。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極の参。
韋震…………双短剣の使い手。妖しの雷公を僕に持つ。萬軍八極の肆。
裴巽…………戟の手練者。妖しの飛廉を僕に持つ。萬軍八極の伍。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。萬軍八極の陸。
花艮…………鉞の使い手。妖しの山操を僕に持つ。萬軍八極の漆。
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極の捌。
その次の日――。
肩に亀を乗せている。娄乾の老母の墓石の前に傅いていたのは、漆黒の襤褸を纏った偉丈夫だった。
介象は、すっくと立ち上がると、後ろに佇む娄乾と裴巽の前に身を運んだ。
「世話になったな、娄乾、裴巽」
「往かれるのですか……?」
娄乾は、八字髭を備えた面貌を曇らせた。
「ああ。俺たちには、次の旅が待っているからな」
「困りごとがあれば、お呼び下され。私も裴巽も、必ずや馳せ参じまする」
娄乾に同調したように、隣に侍る裴巽が頷いた。
「好い好い。老母に恥じることのないよう、更に家を大きくせねばならぬぞ、娄乾。そして、裴巽よ、お主はまだ若い。軍人として生きることが全てではないぞよ」
「はっ」
娄乾と裴巽は、介象と元緒に畏まって拱手した。
「智の人、娄乾。お前の判断に多く援けられた。礼を云う。仁の人、裴巽。お前の親愛の情、優しさ、思いやり、慈しみの心は、唯一無二。再会を愉しみにしている、同志よ」
介象は、整然と踵を返した。ふらと立ち寄ったところから帰るように、娄乾の邸から姿を消した。
その背が見えなくなると、娄乾は隣の裴巽に聞こえるようにぼやいた。
「萬軍八極の技を次代に伝承する必要はない。その枷は、我が前に置いて往け。己が思うままに生きてみよ――だったか?」
「はい。何年後、何十年後、何百年後、いつ、再び蚩尤が現れるかもわからないというのに、介象さまは確かにそう云われました……」
「救われた。介象さまの言葉で、我ら八人の肩の荷は下りたと云える」
「ですが、次なる蚩尤は、更に強大になっているかもしれませぬぞ。その時こそ、萬軍八極が必要になるのでは?」
娄乾は、掌を口許に当てて思案した。
「……否。……その時には、介象さまも更に力を付けておられるだろう。己に枷を掛け、代わりに我らを開放してくれたのだ。強くなるためにな……」
「何だか、寂しいですな……」




