虚と実の世
登場人物
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。萬軍八極の極主。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
娄乾…………剣の手練者。妖しの虎憑耳を僕に持つ。曳影の剣を佩びている。萬軍八極の壱。
鄒兌……医の徒の生娘。妖しの月兔を僕に持つ。萬軍八極の弐。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極の参。
韋震…………双短剣の使い手。妖しの雷公を僕に持つ。萬軍八極の肆。
裴巽…………戟の手練者。妖しの飛廉を僕に持つ。萬軍八極の伍。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。萬軍八極の陸。
花艮…………鉞の使い手。妖しの山操を僕に持つ。萬軍八極の漆。
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極の捌。
貔貅…………萬軍八極が異界より召喚した戦闘に優れる妖し。萬軍八極の玖。
蚩尤…………邪神。
陽虎…………三公に仕える魯国の若き重臣。
「その時は、また、介象さまの許に集まれば良いじゃない。ねえ、鄒兌?」
「合点!」
丘坤は、鄒兌に笑みを向けた。
「その時まで、何を如何すれば良いのだろうか……?」
「何もしないさ、花艮。普通の生活に戻って、悪さをする人や妖しを見聞きすれば、萬軍八極として刃を振るうだけだ。……介象さまのようにな」
途方に暮れる花艮に、裴巽が胸を張って告げた。
「……そうだな。それが、私たちの指針だろう」
長髯を靡かせた藺離が、満足げに頷首した。
「好い好い」
集った萬軍八極たちを前に、元緒は眼を細めた。安堵の溜息をひとつ漏らすと、霊亀の姿に変じ介象の肩に飛び乗った。
「俺からも、皆に伝えねばならぬことがある……」
萬軍八極の視線が集まった。その視線の先の介象には、労いの微笑が浮いていた。
血生臭い宮廷は、閑散としていた。
誰人も居なくなった玉座の間に、西日を受けた陰がひとつ、長く伸びていた。
朝服を纏っている。文官にしておくには惜しいほどの巨漢、陽虎だった。まるで、表情がない。その陽虎が、徐に腰を下ろしたのは玉座だった。
「何故、蚩尤は、彼奴らに手を下さなかったのだ……?」
陽虎は、掌を組み合わせて前のめりとなると独語した。
すると――。
宮廷が揺れた。揺れたと思えば、土台が二段に隆起したような宮廷が沈んだ。否、宮廷が沈んだのではない。地盤が元の位置に戻ったのである。
陽虎は、察した。国の三公が平伏した得体の知れない異形の者が、謎めいた介象と萬軍八極なる者に敗北したということを――。
微動もせず、組み合わせた手に視線を落としていた陽虎は、きっと、顔を上げた。鋭い眼付きで玉座の奥を睥睨した。
「虚と実、嘘と真が定かならぬ世ならば、本音で生きてみるか……」
横から陽虎を照らす斜陽が、その眼を妖しく光らせていた。




