邪悪には毒
登場人物
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。萬軍八極の極主。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
娄乾…………剣の手練者。妖しの虎憑耳を僕に持つ。曳影の剣を佩びている。萬軍八極の壱。
鄒兌……医の徒の生娘。妖しの月兔を僕に持つ。萬軍八極の弐。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極の参。
韋震…………双短剣の使い手。妖しの雷公を僕に持つ。萬軍八極の肆。
裴巽…………戟の手練者。妖しの飛廉を僕に持つ。萬軍八極の伍。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。萬軍八極の陸。
花艮…………鉞の使い手。妖しの山操を僕に持つ。萬軍八極の漆。
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極の捌。
貔貅…………萬軍八極が異界より召喚した戦闘に優れる妖し。萬軍八極の玖。
蚩尤…………邪神。
飛翔する朱の玉の姿が、次第に別の形を成す。大きさは掌ほどだった。雀――。
咄嗟に蚩尤は、胸元に合掌を三つ作った。念じる。
「――――⁉」
何も起こらなかった。
朱に輝く火炎に塗れた雀は、光速で蚩尤を次次に穿つと、天に翔けた。
蚩尤の躰が朱の業火に塗れた。
「ぐおお……」
蚩尤が、野獣のような唸り声を立てた。
すると――。
その頭上から急降下して来たのは、火炎の翼を成した一体の巨大な朱雀だった。
ドオオオン――。
蚩尤の肉躰が、見るも無残に溶け落ちている。
漆黒の疾風が迫った。眼にも留まらぬ閃光を蚩尤に浴びせ、馳せ過ぎた。
業火に塗れた蚩尤の六本の腕が、地に落ちた。
「か、介象さま――⁉」
萬軍八極の声が重なると、蚩尤を包んだ業火が消えた。足許が覚束ない蚩尤は、立っているのがやっとに見えた。
介象は、倒れた貔貅まで歩を進めると、その髪の中から小さな布袋を取り出した。それを手に蚩尤へ歩み寄った。徐に布袋を開けると、中に入っていた金色の粉を蚩尤へ振り撒いた。
見る間に――。
蚩尤の躰が、元に戻った。
「良いのじゃな?」
眉間に皺を寄せた元緒が、介象に質した。
それに合わせ、眼を剥いた萬軍八極と貔貅は絶句した。
蚩尤も同じ反応だった。
邪払金粉――。鄒兌が調合した、邪悪には毒となる薬の筈だった。
「俺は、お前を封印などせぬ」
「…………」




