光明、遥か
登場人物
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。萬軍八極の極主。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
娄乾…………剣の手練者。妖しの虎憑耳を僕に持つ。曳影の剣を佩びている。萬軍八極の壱。
鄒兌……医の徒の生娘。妖しの月兔を僕に持つ。萬軍八極の弐。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極の参。
韋震…………双短剣の使い手。妖しの雷公を僕に持つ。萬軍八極の肆。
裴巽…………戟の手練者。妖しの飛廉を僕に持つ。萬軍八極の伍。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。萬軍八極の陸。
花艮…………鉞の使い手。妖しの山操を僕に持つ。萬軍八極の漆。
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極の捌。
貔貅…………萬軍八極が異界より召喚した戦闘に優れる妖し。萬軍八極の玖。
蚩尤…………邪神。
干将と莫邪の剣を両翼にしたような介象が、蚩尤を狙い澄まして跳ね飛んだ。
斬られた蚩尤の腕が、瞬く間に再生する。胸元に合掌を三つ作った。念じる。
すると――。
足場がない。躰は宙に浮いたままのようだった。辺りは、漆黒の闇。だが、遠くに綺羅とした星星、惑星、そして、銀河が見える。それは、無限の空間だった。
「――――⁉」
驚きの形相となった貔貅は、言葉を失った。
「な、何じゃ――⁉」
元緒は、泡を喰ったように慌てふためいた。
「…………」
干将と莫邪の剣を両手に翳した介象が、蚩尤の頭上を浮遊している。
「いつの世になっても、儂に楯突くと云うのか、介象?」
蚩尤は、頭上に浮く介象を見上げた。六つの眼が、輝きのくすんだ星のように見えた。
「お前の撒き散らす邪が、世に蔓延る限りな」
介象の面貌が、不敵に歪んだ。
「儂が邪の根源だとでも思っているのか? 邪の根源は人。人というものは性悪だ。曾ては純朴だった妖しでさえ邪に飲まれた。その邪の根源を弄んで何が悪い?」
「全ての人が性悪なのではない。性悪が性悪を生んでいるだけだ」
「それを平らげるのが、貴様の仕事ではないのか、介象?」
薄ら笑った蚩尤は、介象と元緒を交互に見遣った。
「左様。じゃが、お前は、性悪が性悪を生むのを善しとした上、性悪と性悪、人と人が争うのを愉悦とした。お前を封印せねば、この連鎖が止まらぬということがわからぬか、蚩尤?」
蚩尤の前方で、横に傾いた元緒の眼差しは、冷然としていた。
「儂が手を下さずとも、人は人を屠る。儂よりも薄汚く、狡猾な手を使い、人は人を貶める。性悪は欲を生み、欲は性悪を生む。過去、現在、未来、いつの時代も悍ましい生き物が性悪、人というものだ」
「それでも、人というものに、俺は、光明を見る」
「…………」
蚩尤は、憮然とした。




