総力の攻防
登場人物
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。萬軍八極の極主。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
娄乾…………剣の手練者。妖しの虎憑耳を僕に持つ。曳影の剣を佩びている。萬軍八極の壱。
鄒兌……医の徒の生娘。妖しの月兔を僕に持つ。萬軍八極の弐。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極の参。
韋震…………双短剣の使い手。妖しの雷公を僕に持つ。萬軍八極の肆。
裴巽…………戟の手練者。妖しの飛廉を僕に持つ。萬軍八極の伍。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。萬軍八極の陸。
花艮…………鉞の使い手。妖しの山操を僕に持つ。萬軍八極の漆。
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極の捌。
貔貅…………萬軍八極が異界より召喚した戦闘に優れる妖し。萬軍八極の玖。
蚩尤…………邪神。
韋震と雷公の胸元から鮮血が飛び散る。
その血飛沫の間を縫って、娄乾が蚩尤の首元を穿つような黒い突きを放った。
「蒼頡は、貴様か」
娄乾の黒い突きが二つの剣で撥ね上がる。娄乾の空いた胸には、蚩尤の左の第二腕が伸びた。
ドンッ――。
鈍い音と共に、口から血潮を噴出した娄乾の躰が吹き飛び、地を転がった。
蚩尤は、殺気を捉えた。その方向に六つの眼を向けると、離れたところから弓に矢を番えた丘坤と四肢を備えた睥睨が狙い澄ましている。
「そんなものか、当代の萬軍八極は……」
蚩尤の面貌に不敵な笑みが浮くや否や、その笑みが消えた。
「――――⁉」
半透明に見える。横臥した鄒兌に覆い被さっていたのは、灰褐色に輝く妖しのようだった。否、気配からして妖しとは違う。神木の幹ほどもある大きさだった。神仙な霊山を連ねたような甲羅から、鹿の角のようなものを備えた蛇頭がくねっている。
それは、紛うことなき、霊獣の玄武だった。
眼覚めてはいない。しかし、玄武の中の鄒兌は、その傷が徐々に塞がっているように見える。
ドッ、ドッ――。
右の第一腕と二腕に何かが突き立った。蚩尤はそれに眼を向けた。二本の矢だった。
そこへ――。
白面に「鼻」の文字が歪んでいる。蚩尤の眼下から湧くように躍り出たのは、鬼のような形相の貔貅だった。嵐のような偃月刀の斬撃が蚩尤を襲う。迅い。
それに怯むどころか、応じるように二本の剣が舞った。
「――――⁉」
大きな気配が寄せている。蚩尤は、後方を一瞥した。
二本の剣を掲げた漆黒の影が迫る。
堪らず蚩尤は、宙へ跳ね飛んだ。右の第二腕、その手の中指に人差し指を重ねた。
スパンッ――。
細剣の一閃。その手が斬り落とされた。見えたのは、軽々と宙へ跳ねた元緒だった。




