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身を裂かれるような別れ

「いやっ!私、花乃と別れたくないっ。」


ポロポロと泣きながら花乃に縋り付く葉月。

そんな葉月の頭をよしよしと撫でながら、花乃は優しく慰めていた。


「お姉ちゃん、別れを切り出された彼女みたいなセリフ、こんな公衆の面前で言わないで。恥ずかしいから。」


さっきから、ちらちらと周囲の視線が痛い。

そして那津はと言うと、ちょっと離れたところで他人のフリして見守っている。

その表情は必死に笑いを堪えていた。


ーー那津のヤツ、絶っっっ対に面白がってる!


「私、花乃のことが好きよ!」


「私も大好きだよ、お姉ちゃん。」


「じゃあ何で別れなきゃいけないの!」


「それはね、お姉ちゃん。お姉ちゃんの家族が地元で待っているからだよ。」


何度も『お姉ちゃん』と強調することで、周囲の誤解を解きたい。そんな花乃の必死な弁解に気付く様子もなく、葉月は叫び続けた。

 昔から、葉月は花乃と別れる時は駄々をこねた。しかし、地元ではそれも風物詩かのようにみんなあたたかく見守ってくれていた。


ーーでもそれは田舎だからなんだよ、お姉ちゃん。


ここは東京。

葉月の行動は、冷ややかな視線を集めるだけなのだ。


「そうだ、お姉ちゃん。今度のお盆、帰るから。ね?」


「あと半年もある……。」


納得してくれなかった。

むしろ、葉月の花乃を抱きしめる力が強くなった。


「花乃。お姉ちゃん、花乃を養うよ。花乃、働かなくていいんだよ?ねえ、お姉ちゃんのところに来て?」


高校時代、伝説のマドンナと呼ばれた可愛い葉月からの「ヒモになってくれ」という誘い。

きっと言われたい男性はたくさんいるだろう。

少し潤んだ瞳で上目遣いされながらお願いしてくるのだから、攻撃力はとても高い。


「葉月さん、それはさすがに……。一応、花乃は俺の妻ですから。養うなら俺が養いますよ。」


那津がようやく助けに来てくれた。

那津の言葉に葉月は何も言えなかったが、納得はしていないようで那津をじっと睨んでいた。花乃を渡すまいと、ぎゅっと抱きしめたまま。

 そんな葉月の姿に、花乃はため息をついた。


「お姉ちゃん、夏まで我慢して。我慢できない、て駄々こねるなら、夏に戻らないから。お正月も戻らない。」


効果は抜群だった。

葉月は衝撃を受けた表情で、ゆっくりと、名残惜しそうに、花乃から離れた。

そして、絞るような声で話した。


「絶対絶対、夏には帰ってきてね。」


「うん。帰ってくるよ。」


そう言って、手を振った。

何度も何度も花乃のほうを振り返り、何か言おうとして、口をつぐみ、とぼとぼと新幹線に乗り込む葉月。

花乃と那津はそんな葉月を笑顔で見送った。


 新幹線が出発して、ようやく姿が見えなくなると、花乃は大きくため息をついた。


「お疲れ。」


「お姉ちゃん、なんで別れる時だけあんなに駄々こねるんだろう……。」


「まあずっと一緒にいたからな。ほら、葉月さんが大学で上京する時だって花乃のこと連れて行くって駄々こねてたじゃん。」


「あれ衝撃だったなあ。」


葉月が大学進学のために上京する際、一人暮らしをすることになり、家族とそして那津で葉月を見送った。

それまで楽しそうに準備して、変わった素振りを見せなかった葉月が、新幹線に乗る直前になって泣き出したのだ。そして花乃を抱きしめて「連れて行く〜っ!」と叫んだ。驚いた花乃も何もできず抱きしめられていた。

一緒に見送りに来ていた那津も、初めて見る葉月のその姿が衝撃で今でも忘れられそうにない。

その時は、両親が必死に説得して花乃と葉月を引き剥がして、葉月を新幹線に乗せた。

しかし、その時だけかと思ったこの駄々が、その後も毎回毎回同じように言うので、今となっては風物詩のようになってしまい、周囲もそれを楽しんでいる。

当の本人である花乃はたまったものではないが、経験を積んで、葉月の説得の仕方も会得した。


「ふふっ。完璧な人だと思っていた葉月さんの姿、しばらく噂になってたもんな。」


「そうだね。学校の先生たちからも心配されたよ。」


「まあそれだけ葉月さんは花乃のことが好きなんだろ。」


それは素直に嬉しい。

花乃は頬を少しだけ染めて、照れてそっぽ向くのだった。


「あ。あの店寄ろうぜ。」


「いいね、喉渇いたもんね。」


「はは。花乃は葉月さん説得するのに疲れたんだろ。」


「那津はただ笑いすぎて喉渇いただけでしょ。」


そんな、いつもと変わらないやりとりをしながら、2人は店のドアを開くのだった。




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