第八話 大接戦
敵対者が三人に増えたことで、翼に傷を受けたことで、さらなる警戒心を抱くグリフォン。
「グォウォオッ!」
そして唸り、圧縮された空気の弾丸を連続で放つ。
「無駄だッ!」
言って、クリスティーナを庇いつつ前に出たのは騎士。
なんと――目に見えないはずの空気の弾丸を、次々と剣を振るって切り落とし、無効化してしまう。
「す、すごいですの!」
まさかの大技に、クリスティーナは驚きの声を上げる。
「この程度の魔術に遅れを取るようでは、ブーケンシャーの騎士は務まりませんよッ!」
言いながら、余裕そうに風の弾丸を切り落とす騎士。
グリフォンの魔術はクリスティーナという素人を圧殺するには十分であっても――よく訓練されたブーケンシャー侯爵領の騎士を打倒するには不足しているということであった。
そうして騎士を相手にグリフォンが躍起になっているところに、隙を見て動いていた冒険者が行動に出る。
「油断したなァッ!!」
側面に回っていた冒険者が、言いながらナイフを投擲、その刃がグリフォンの右目に突き刺さる。
「ギャォオオッ!!」
ダメージから魔術を発動する余裕も失い、痛みにのたうち回るグリフォン。
「このまま行きゃあ、倒せそうですぜ騎士さん!」
「だが油断は禁物だ、あの巨体を活かした攻撃は、我々だけでは防ぎきれないッ!」
言いながら、グリフォンの次の行動を警戒する冒険者と騎士。
そして――このタイミングで、まさかの者たちが動き出す。
「――お嬢様を助けるんだ!!」
「グリフォンなんざ、怖かねえ!!」
「お逃げ下さい、お嬢様っ!!」
それは――街に住まう、近場の建物に逃げたはずの領民達。
口々に言いながら、かき集めた家庭用品、食器、石に至るまで、とにかく何でも、グリフォンに向かって投擲する。
「グルゥゥウ……」
雨霰と振り注ぐ物品に、ダメージこそ無いものの、苛立ちを覚えている様子のグリフォン。
その光景を見て、クリスは思う。
(わたくしの為に、危険を犯してこんなことまで……っ!!)
そして同時に、考える。
(けれど、このままではグリフォンの怒りを買って、被害が広がりかねませんわ)
もしもこのまま、グリフォンを順調に倒せたとしても。
領民に怒りを覚えたグリフォンが、魔術の一つでも放ってしまえば、街が壊され、人が傷つく。
自分をここまでして守ろうとしてくれる領民達だからこそ、そんなことは許せない、とクリスティーナは思った。
そして――予想だにしない展開で思考が一度リセットされ、戦いへの集中が切れたクリスティーナは、だからこそ今まで見落としていた点に思い至る。
そもそも何故?
(どうしてこのグリフォンは、狙いすましたかのようにこんな場所まで飛んできたんですの……?)
そう、町中の、しかも道中にいくらでもあった攻撃対象たりうるものを完全に無視して、ちょうどクリスティーナの眼の前に降り立ったのは、何故なのか?
(理由があるとすれば、わたくし自身ですわね)
と、思い至る。
何か野生の勘のようなものが、例えば群れのボスが放つ気配的な何かを感じ取り、最も近い場所に居た弱い個体、つまりクリスティーナを報復として狙ってきたのだとすれば。
確証は無い、だが可能性があるのならば。
(捻り出しなさい――わたくし!)
クリスティーナは、その何かを、グリフォンが察知するに値する力を、当然存在するものと思い込んで、腹の底から引っ張り出そうと集中する。
それは丁度、前世における下丹田という部位に集中し、武術的な力を引き出す時の集中に似ていた。
(ある、わたくしの中に……グリフォンの魔術から感じた『嫌な予感』と似たものが)
その不思議な感覚を、腹の底から引っ張り出して――全身から、グリフォンを目掛けて滝のように吹き出させる。
「鳥頭ァァアアァアアッ!!」
そして絶叫し、グリフォンを呼ぶ。
手に持った風切羽根を向けて、突き付ける。
「お前が望みの、ボスはコッチだァアアッ!!」
叫び声に、出せるだけの殺意を乗せる。
下丹田、下丹田じゃないか! 生きていたのか!




