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【暴力】で全てを破壊する転生悪役令嬢、精霊の加護が全ての世界で婚約破棄される  作者: 殿海黎
第三章 血戦闘技会編

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第十七話 義唱剣、無刀の極意




 構えを取ったクリスが、一撃で殺すつもりで、ジリジリとギルマスへと歩み寄っていく。


 その歩幅は、ギルマスを警戒しているのではなく、圧倒的強者の余裕があるからこそ狭かった。



 レッサーパンダ拳の一撃――高い位置に構えた拳を、背筋まで使った全身運動による振り下ろしで叩き込むその威力を、ギルマスは知っている。


 竜の牙すら容易く打ち砕く威力を、正攻法で耐える、あるいは受け流す術をギルマスは持っていない。


 当然――回避だって出来るはずもなく、事実としてギルマスは詰んでいた。



 だが、一つだけ、義唱剣の奥義の中に、対応可能な技がある。


 それは、無刀でも扱える、極意とも言うべき技術。


 ――秘剣『愛』。


 それが、レッサーパンダ拳を打ち破る、唯一の術である。



 この秘剣の中核を成す極意とは――書いて文字のとおり愛の極意。


 殺すつもりで襲い掛かってくる相手のことすら愛し、受け入れることで、闘気と魔力を同調させる。


 相手の力と、自身の魔闘術を一体化、同一化し、馴染ませることでダメージを無効化、無害化する。


 また、同一の存在である以上、相手の防御するという意思すらもすり抜けて、確実に反撃を――カウンターの一撃を入れることが出来る。



 つまり秘剣『愛』とは、究極の後の先の極意なのである。



 問題は……ギルマスはこの極意を、そして秘剣『愛』を、未だ習得できていない点にある。


 単に知識として知っているだけの極意であり、技であり、隠れ里での修行の日々があっても習得できていなかったのだ。


 これを、この土壇場で体得し、成功させねばならない。



 無理であり、無茶でもあったが、それでもやらねば、通さねば生き残れない。


 ギルマスは覚悟を決め――秘剣『愛』の構え、つまりは無防備に立ち尽くす姿勢を取った。



 クリスは、それを見てギルマスが何かを掴もうとしていることに感づく。


 故に侮ること無く、ゆっくりと接近して――射程距離に捉えた瞬間、穿つ。


「――ゼァッ!!」


 両の拳を同時に、ギルマスに向けて振り下ろすように叩き付ける。



 迫りくる殺意の塊、クリスの拳を捉えながら、ギルマスは愛の極意を体得しようと、感覚を研ぎ澄ます。


 夢の中で見た――師匠の姿を思い返す。



『儂がこの手でお前を殺してやるさ』



 殺す、という言葉に込められた愛情。


 いいや、それは確かに、いつかの未来でギルマスを殺すという殺意であった。



 殺意すら愛するとは――相反するものを受け入れろ、ということでは無かった。


 殺意すら、本質は愛情なのだと、その根源を、湧いて滲み出る源泉を捉えよ、という意味だったのだ。



 親が子を守る為、外敵に抗おうと発する殺意。


 己の利益の為に、利己的な願いの為に他者を踏み躙ろうとする暴力に伴う殺意。


 殺すことが、傷つけることが単に楽しいから、快楽の為に生まれる殺意。



 たとえどれだけ醜悪な思いから生まれる殺意であろうと――人の心に愛情という機能が無ければ、決して生まれるはずのないもの。



 なるほど――とギルマスは理解する。


 その根っこを掴んでやればいいんだな、と。



 もう直撃する寸前――クリスの拳が眼前に迫り、最早迎撃も回避も手遅れ、といったタイミングになって、ようやくギルマスは感覚を掴む。


 クリスの放つ殺気に意識を向け――根源に、自分自身の意識を纏わせる。


 さながら、剣を魔闘術で覆い、保護するかのように、意識で意識を包み込み、これを通じでクリスの暴力と、ギルマスの魔闘術が一つに繋がる。



 それと同時に、ドゴォッ、とクリスの拳がギルマスへと直撃する。


 だが不思議なことに、ギルマスへのダメージは無かった。



 どころか、ギルマスはその殺人的な威力を持つ拳を身体で受けたまま、流れるような動作でクリスの腕を掴み、そのまま投げ飛ばす。


 自分の力を利用し、投げ飛ばされたクリスは――二十メートル以上も遠く吹き飛ばされながら、空中で体勢を整え、ふわりと着地する。



 ――ギルマスが、クリスのレッサーパンダ拳を打ち破った瞬間である。


 愛の極意が、秘剣『愛』が勝ったのだ。



「ようやく、芯が通ったようですわね」


 クリスは嬉しそうに、自分の攻撃が破られたことを一切気に止めず、ギルマスの変化を語った。



「ああ……感謝するぜ、嬢ちゃん。


 オレにもようやく、見えてきた気がするんだ。


 正義って何か、言葉にするようなもんじゃあないが……ともかく俯いてくよくよするのはヤメだ。


 ――行こう、スミスを追うんだ」



 こうして、ギルマスは新たな境地へと至り――これからは何の迷いや憂いもなく、旅を続けられるのであろう。

愛は強い……LOVE IS THE STRONGESTってコトォ!?

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