第十五話 革命の結末
革命軍の活躍により、皇帝派の貴族は、主要人物の殺害や御家断絶という形で力を失い、帝国の支配階級から追い出された。
確かに、革命は成った。
だが、代わりに台頭したのは良識的な貴族という幻想上の存在ではなく、革命を起こした地方貴族や、立場が弱かっただけの帝都近隣の貴族、そして彼らを支援した数々の資産家達であった。
彼らは皇帝派の時代に失われたものを取り返すべく、政治形態を合議制へと変え、急速に政治改革を進めていった。
しかし民衆、あるいは多くの弱小貴族にとって、発言権が無いに等しい状況は何も変わってはいなかった。
帝国から消滅したのは、皇帝派という権力により腐敗した病巣のみ。
結局のところ、現在の再多数派閥――つまり有力貴族や資産家との繋がりが無い、繋がりを作ることも出来ない立場の者達にとって、格差と対立は残ったままであった。
つまり、帝国の弱者が苦しむ世界というのは、何も変わっていないのだ。
結局変わらなかったものの為に、多くの人を殺し、その生命を暴力でもって理不尽に踏み躙ってまで、政変するべきだったのだろうか?
これが――革命を終えた後の、ギルマスが抱いた疑問であった。
疑問は疑念へ、そして懊悩へと変わり、やがて罪の意識から剣を握れなくなった。
剣を捨て、帝国から逃げて――辺境都市ファウンダリアへと辿り着き、ギルドマスターとなった。
だが、逃げてきたはずなのに、それでもなお義唱剣の理念を捨てられず、弱者を救いたいという思いから、方々で出しゃばってしまう。
それが今のギルマスの姿であった。
過去を思い返し、自分の置かれた状況を振り返り、意識を取り戻したギルマスはウンザリしていた。
確かに、自分は腑抜けと呼ばれても仕方ないな、と。
自分で望んで事を成して……それなのに後悔して、悩んで、今も剣を満足に扱えずにいる。
誰のせいでもない、自分の間抜けさ、覚悟の無さによる不覚であり、こんな有り様だからスミスにも、クリスにさえも腑抜け呼ばわりされるのだ、と分かった。
クリスはギルマスの意識が戻ったことに気付くと、服を掴んで引き摺りながら移動するのを止め、その場にズタッと落として解放する。
そして少し距離を取り、向かい合って、ギルマスとの手合わせに備えた。
「……なあ、嬢ちゃん」
ギルマスは、戦う構えを取らずに、クリスへと問いかける。
「人を救うってのは、こんなにも難しいもんだったのか?」
クリスはその問いの真意までは掴めないものの、明らかに迷い、心が乱れているギルマスに、笑止千万、と鼻で笑った。
「弱者が弱者を救おうとするから、失敗をするのです」
クリスは咎めるように、反省を促すように、強い口調で言う。
「例えばたった一人、誰かを確実に救いたいと思った時、必要とされる力の最低ラインが世界最強です。
でなければ、失敗をすることから逃れられるわけが無いのです。
絶対に失敗したくない、必ず救いたい、何も失いたくない……そういった傲慢な願いを抱くのなら、その分だけ力を付けなさい。
力なくして結果を得ようとするのも、結果が得られず嘆くことも、どちらも傲慢ですわね」
クリスの咎めるような口調に、ギルマスは苦笑いを浮かべる。
「無茶言うぜ、世界最強なんて」
クリスはさらに、戒めるように、罰するかのように言い続ける。
「救いたいと願う時、それは誰かを踏み躙る覚悟を決める時ですわ。
天秤の両端を同時に持ち上げることは出来ないのですから。
失敗恐れるに足らず、と言えるほどの力も持たないのなら――自分で願った分、つまり自分がこれから踏み躙る分を、自ら挽回する他ありませんわね」
クリスの言葉を、ギルマスはよく噛み締める。
「どれだけ力をつけたところで、人は全能ではないから、失敗することもある。
それでも誰かを救いたいと願うなら――失敗を怖れて救うことを諦めるよりも、力をつけて失敗する可能性、救われて然るべき人を誤って踏みにじる可能性が無くなるように務めるべきだ。
って、ところかい、嬢ちゃん?」
と――ギルマスは解釈した。
「ふふ、好きに解釈なさい」
クリスは笑って、ギルマスの解釈を認めた。
「さあ、悩んでいる暇も勿体ないですわ、次の手合わせ、構えなさい」
「はいよ、ったく、おっさんに優しくない嬢ちゃんだねぇ……」
ギルマスは言われて臨戦態勢を整え――間もなくして、幾度目かの敗北を喫し、クリスの拳で伸されるのであった。
ふーん、そっか……(ギルマスのウダウダを聞き流す)




