第十三話 ギルマスの旅路
ある意味では、和気藹々と旅するスミスとカノンとは打って変わって。
クリスに引き摺られて旅立ったギルマスの旅路は散々だった。
「――さあ、掛かってきなさいな」
クリスはギルマスと対峙し、クイッと手を拱いてから言う。
ギルマスは何も言い返す事無く――架空の剣を抜き、魔闘術を発動。
「義唱剣……秘剣『嵐』」
そして、義唱剣の技を発動する。
一瞬の内に、複数の角度、方向から薙ぎ払いを行い、荒れる暴風のような不規則的な連続攻撃を放つ技である。
この、常人であれば同時に幾つも切られた、と勘違いするほどの剣戟を、なんとクリスは指一本で全て受け止めて見せる。
「遅い」
言うと、クリスはギルマスの架空の剣を受け止めつつ、グワンッと絡め取り、そのままギルマスごと纏めて地に伏せさせた。
「グッ!?」
勢いのあまり、地面に叩きつけられそうになったギルマスは、何とか踏ん張って受け身を取り、ドッと背中から着地する。
そんなギルマスの様子を見ながら、クリスは課題について告げる。
「技の起こりのその前……斬ると意識するその漠然とした気配が先に到達する。
ギルマスの場合、それがまるで素人同然のレベルで先に到達していますので、どれだけ剣速を高めようとも、容易く防がれ、先読みされてしまうのですわ。
これだけ技を極めておいて、このようなことは本来ありえないのですが……腑抜けと呼ばれるのも納得の有り様ですわね」
クリスは呆れるように言うが、ギルマスもこれは自覚しており、反論する気も起きなかった。
ギルマスは、本心として力を振るうことに迷いがある。
それも、トラウマと呼んで良いレベルの強い迷いが。
故に――実際に剣を手にしてしまうと、振ることすら躊躇してしまう程だから、たとえ無手であろうとも、意識に身体が即応するほどの、あるいは意識の発生をギリギリまで抑え込めるほどの、鋭く研ぎ澄まされた感覚に入れないでいた。
要するに、この期に及んで本気で戦う気が無いのだ。
だから、意識が研ぎ澄まされておらず、身体を動かすよりかなり早く気配が飛んでいってしまう。
「これは荒療治が必要そうですわね」
はぁ、とため息を吐くクリス。
ギルマスは立ち上がり、もう一度手合わせを願う。
「悪いな、嬢ちゃん。
次は全力でやる、相手してくれねえか」
これに、クリスはニコリと笑って応える。
「当然です、むしろ覚悟をしておいて欲しいですわね――わたくしがわざわざ、荒療治と言い切ったことの意味について」
こうして、二度目の手合わせが始まる。
ギルマスは、半端な技では先読みされ、防がれることを理解した。
であれば――先読みされようとも当たる、防ぎようのない一撃でクリスを追い詰めることが出来れば良い、と考えた。
故に、次に選んだ秘剣は。
「――秘剣『星喰』」
義唱剣、奥義の一つとも言える技であった。
――通常、人は大なり小なり、気配というものを感じ取りながら生きている。
何か目で見ておかしなことが無いような状況、場所であっても、なんか嫌だ、気持ち悪いといった直感が働く場合がある。
このような危機を感じ取る能力に、例えば目に強烈な光を見せて目眩ましをする時のように、強い殺気や覇気をぶつけることで、意識を眩ませる。
これが、秘剣『星喰』の第一段階。
そして瞬時に気配を――意識を殺す。
つまり強烈な光に目が眩んだ後、また暗闇の中に戻るようなもので、これをされることで人の感覚は狂う。
目が狂って視界を失うなら、危機を感じ取る直感が狂って失うものは何か?
即ち――危機感。
この第二段階を経て、相手の危機感そのものを殺すことが、秘剣『星喰』の中核を成している。
そうして最後の、第三段階、秘剣『一閃』で使うような、爆発的な出力による神速の剣技にて、相手の意識、危機を感じ取る能力を殺すと同時に斬りかかる。
これは言うなれば、気配をコントロールすることで、正面から、眼の前で不意打ちを行うような技である。
それも、単に不意打ちをするのでは無く――危機察知能力を殺されている以上、意識的な防御はもちろん、無意識的に発動している身体強化等の防御能力すら失う。
つまり――秘剣『星喰』とは、危機察知能力を殺すと同時に神速の剣技で斬りかかる、防御無効化の秘剣なのだ。
ギルマスは、クリスがこれで死ぬような相手ではないと理解していた。
だが、怪我ぐらいならしても構わない、というぐらいの意識で、全力で技を仕掛けた。
そして――踏み込み、クリスの眼前で架空の剣を振り抜いた瞬間。
「――温いッ!!」
なんとクリスは、これにかち合わせるように拳を振り抜いてきたのだ。
正面からギルマスの架空の剣を、凝集された魔闘術の力を、拳一つで粉砕し――そのまま、ギルマスへと打ち付ける。
回避も、防御も不可能であったはずの一撃が、正面から打ち破られた。
そしてギルマスは無様にも……クリスから回避不能、防御不能の拳を受け、吹き飛ばされるのだが、容赦の無い一撃は、とっくにその意識を刈り取っていた。
意識の無いギルマスは、十メートル以上は吹き飛び、バンッ、バンッと地面で何度も跳ねて、ようやく止まる。
「――さて、この調子でどんどん行きますわよ」
聞いてすらいないギルマスに向かって、クリスは無慈悲な宣言をするのであった。
☆一口メモ☆
ギルマスの技、グリフォンぐらいなら一撃で殺せるぐらいの威力があります。
そう、あのグリフォンすら一撃でね……




