第十話 正義の在り方
「略奪をする側も馬鹿じゃない。
大した装備も無しに旅をして、怪我も消耗も見られない、冒険者らしき人間二人を相手に、暴力で強硬手段を取るようなリスクは冒すまい。
ヤツらが狙うのは力の無い人間や、魔物相手に消耗し、余裕のない冒険者だ」
スミスの理屈に一部納得するも、まだ疑問が残るカノン。
「そうは言っても……略奪するってんなら、アタシみてェな女は格好のカモに見えるだろ、襲われたらどうするんだよ?」
このカノンの理屈をスミスは鼻で笑う。
「フン、確かにチビでも女だ、攫って売れば金になるだろう。
だが、そこで無理をするような馬鹿の運営する盗賊村なんぞ、生存競争に生き残れん。
ましてや、こういった村は攫った人間を都度どこかへ売り飛ばしたりはしない。
恐らく今も、何処かに集めて捕らえているだろうし、だからこそ今無理をして、俺達のどちらかに逃げられでもした場合を考えれば、大人しく金貨一枚と引き換えに補給をしてやった方が得だと考えるだろう」
スミスの理屈を、カノンは理解出来た。
だが……理解できたからこそ、今度は許容できない部分が生まれた。
「おい、今なんつった?
人が攫われて、どっかに閉じ込められてるだって?
そうと分かってて見逃して、金貨まで寄越してやって……なんのワケがあってんなことすんだよ、てめェは」
怒りに燃えるカノンの表情を見て尚、スミスはまるで気にする様子も無く、当たり前のような表情のまま言い返す。
「何の問題がある?
俺達の目的は『聖骸』を潰すこと、そして血戦闘技会に出場することだ。
この村で一悶着起こして、囚われている人間を助けてやって、その後どうする?
正義の味方は感謝されて万事解決、とでも言うつもりか?
救われた人間をこんな村に放置して、元通り旅に戻るか?
それとも生活できるようになるまで、安心できる場所に逃げ込めるまで、面倒を見てやるつもりか?
いつまでそうする、血戦闘技会に出て、幼馴染を止めるつもりじゃあ無かったのか?
大本の災い、聖骸を仕留めるつもりも無く、目先の人助けをして悦に浸りたいなら……趣味でやるんだな、俺を巻き込まず、一人で自由にやってくれ」
スミスの言葉に、カノンは咄嗟に筋の通った言葉は返せなかった。
だが、胸の内から溢れる、自然な思いのままに言い返す。
「助けてやりてェ、それだけの話だろうが。
御託並べやがって、要するにてめェはてめェの都合で見捨てますってだけだろうが。
つまんねェ理屈並べる前に、本気で語れや、オイ」
言って、カノンはスミスの胸ぐらを掴む。
それでも尚、スミスは態度を崩さないまま、動揺もせずに言い返す。
「最初からそう言っている。
俺達は俺達の都合でエリュシオンを殺し、聖骸を潰す。
目的を優先して急ぐ。
今更方針を変更はしない、心変わりするなら貴様一人だ、俺に文句を付ける前に一人でやれ」
カノンとスミスは、互いの目を睨み合い、何かあれば戦いにも発展しようという強い意思をぶつけ合う。
しばらくそのまま睨み合いの姿勢を続け――不意に、事態が急変する。
「――敵襲だァッ!!」
外で、村人が大声で叫ぶのが聞こえてくる。
その言葉を正直に受け取ると……スミスとカノン以外の、何者かがこの盗賊村に襲撃を掛けて来たことになる。
スミスは諦めたように息を吐いてから、カノンに提案する。
「行くぞ、状況を把握する」
これにカノンも頷き、二人は空き家を出て騒ぎの方へと向かってゆく。
外では、村人と襲撃者らしい人物が言い合いをしていた。
「だから、人質を解放しなさいって言ってるでしょ!」
「人質なんかじゃねぇし、解放なんかしたらやっていけねぇんだっつってんだろうが!!」
村人――もとい、盗賊村の蛮族と言い合いをしているのは、まだ少女と言って良い年齢の女であった。
身長こそ百七十センチ超と高いものの、顔立ちは十四か五、それぐらいだろうと予想出来る程度には幼い。
髪は銀色で、動きやすさを優先したのかショートボブ、武器はレイピアらしき剣を握っており、防具はごく普通の冒険者らしいもので、革の胸当てや手甲といったもの。
恐らくは見た目通りで、近くの街かどこかで人探しの依頼か何かを受け、この盗賊村に辿り着いたのだろう、とスミスは予測する。
「そう、人質を解放する気が無いなら……このわたし、『正義のサムライクイーン』シャルロット様が皆殺しにしてあげる!!」
レイピアを腰から抜き、村人を指差す代わりに切っ先を向け、正義のサムライクイーンなるものを自称しつつ言い放つ少女――シャルロット。
「は?」
「……阿呆か」
カノンとスミスは、それぞれ正義のサムライクイーンシャルロット様に呆れていた。
「ちくしょう……人質じゃねぇっつってんのに、話を聞かねえ女だ、仕方ねぇ!
全員出てこい、三人共殺しちまえ!!」
シャルロットと対話していた男が言うと――村のあちこちから、なんと女まで武器を手に取り、シャルロットのみならず、スミスとカノンにまで殺意を向けてくる。
冷笑のスミスVS熱血のカノン




