第九話 盗賊村
カノンとスミスが辺境都市を出て――およそ一週間が経過した。
スミスは最短距離を旅するつもりなのか、整った街道を無視し、険しい山道や森の中を突っ切って進む。
そんなスミスを相手に、腕試しを何度も挑みながら……都度失敗し、ボコされてはまた襲撃する、というルーティンを繰り返すカノン。
この日も同様、スミスに襲いかかり、返り討ちにあってボコボコにされたカノンと、まるで同行者など居ないと言わんばかりに、好き勝手進むスミスは、日が沈みつつある山道を進んでいた。
「……なぁ、今日はどこまで進むつもりなんだよ、もうすぐ日暮れだぜ?」
カノンが不満げに問うと、スミスはこれに答える。
「もう少し行けば村がある、そこで今日は一泊するぞ」
「何だよ、それを早く言えっての!」
久しぶりにまともな寝床で寝られる、と分かったカノンの声が弾む。
そんなカノンの様子を、訝しげに見てから、スミスは疑問を口にする。
「チビ、貴様今日俺にやられた怪我はどうした?」
「あぁん? そういや怪我が大して後に響かねェな……」
カノンも言われて、疑問に思うが、理由らしい理由に思い至らない。
「ま、さしずめアタシが天才過ぎて、スミスさんの技を受けるのが上手になってきたってトコだろうな!」
「片腕で払われる天才とは……安い才能もあったもんだ」
「んだと、コラァ!!」
自惚れるカノンを諌めるように言いつつ、スミスは考える。
(一撃の重さは確かに変えている――それで尚、痩せ我慢でも何でもなく、怪我が残らんということか。
エリュシオンに殺されかけて……生死の間を彷徨ったのを切っ掛けに、『目覚め』つつあるのか?)
等と考えるも、それ以上を考えたところで無駄だと思い至り、これからはより強く殴ってやろう、とだけ決めるスミスであった。
やがて二人は、日が沈み暗くなり始めた段階で、ようやく村へ到着する。
「冒険者の方々ですかな?」
村の前に到着すると、村長らしい老人が二人を出迎えてくれた。
「ああ、二人、身一つで旅をしている途中だ。
今夜一泊だけで構わんから休める場所と、少しばかり物資の補給をさせてもらいたい。
報酬は十分に払うが、可能だろうか?」
言って、スミスは懐から金貨を一枚取り出して見せた。
これを見て、村長は嬉しそうに頷く。
「ええ、ええ、構いませんとも。
今は使っていない空き家がありますので、ぜひごゆるりとお休み下さい」
こうして二人は村長から歓迎され、村の中へと招き込まれる。
「いやぁ~、久々の真っ当な寝床だ、こんな辺鄙なところでも村があってくれて、助かったぜ!」
能天気に喜ぶカノンを、スミスは尻目にかけながら、胸中で不満を漏らす。
(村は村でも、ここは――『盗賊村』だがな)
盗賊村とは、革命期以前から存在する、帝国の闇の歴史そのもの。
階級社会ゆえの格差が、貧しい村の人々に略奪という安易な選択肢を与えてしまい、略奪によって豊かになった村が、さらに成功体験を生かし、略奪を繰り返し、生き残る。
こうして略奪が当たり前の文化となり、生き残り続けた地方の集落を俗に盗賊村と呼び、このように村単位で蛮族化した限界集落は、現在でも帝国各地に無数に存在する。
さらには、帝国革命期の情勢不安と、革命軍が起こした散発的な内紛の影響もあり、善悪問わず敗残兵を襲って略奪する集落も増え、実際に豊かになってしまった。
今も当時のその感覚のままで続く、危険度の高い盗賊村が各地にある。
今回スミスとカノンが訪れた村も、そうした盗賊村の一種であった。
どころか――この盗賊村は、なんと『聖骸』の下部組織でもあり、ある意味では因縁のある土地ですらある。
と、いったような説明を、一晩だけ借り受けた空き家で一息ついた頃に、スミスからつらつらと言われ、カノンは衝撃のあまり、わなわなと震えるしかなかった。
「そ、そ……それって、おいッ!」
「声がデカイ、騒いで余計な刺激をするな」
スミスは言って、カノンを黙らせる。
「……敵地のど真ん中で寝ろっつうのかよ?」
小声で文句を言うカノンに呆れ、ため息を吐いてからスミスは説明をする。
敗残兵からの略奪までするなんて、なんて野蛮なんだ……
☆一口メモ☆
この世界の人間は身体能力が魔力とかで上がっているので、徒歩の移動速度も速い。
カノンとスミスの場合は自転車よりも少し速いぐらいの平均時速で移動している。




