第八話 旅の始まり
一方、病室の床に叩きつけられていたギルマスは、ゆっくりと身体を持ち上げ、苦々しい表情を隠そうともせず、拳を握りしめ、嘆く。
「ちくしょう、俺は……俺に、どうしろってんだよ……ッ!!」
そんなギルマスの様子をしばらくは眺めていたのだが――飽きた頃になって、なんと慰めるどころか、歩み寄り、その襟首を掴んでグイッと持ち上げるクリス。
「うおっ、なんだよ嬢ちゃん!?」
「行きますわよ」
「はぁっ!?」
有無も言わさず、クリスはギルマスを掴んだまま引き摺り、病室に空いた穴から外へ出る。
「追いかけて、力になりますのよ。
――安心なさい、腑抜けた半人前の男一人、わたくしが鍛え直して差し上げますわ」
クリスに言われ、しかしギルマスは抵抗する。
「いや、今更オレが鍛え直したところで、力になるかどうか分からんし……。
そもそも、追いかけるとしても、準備が居るだろ、まずは家に返してくれよ!!」
「そういう発想に至る所が軟弱なのです。
カノンさんを見習いなさい、何の準備もないのに、スミスさんのところへ飛び込んで行きましたわよ?
いい年をした大の男が、何を女々しいことをほざくのです!!」
「ぐっ……ちくしょう、言い返せねぇ……」
年下の小娘に白昼堂々と叱られ、立つ瀬のなくなるギルマス。
こうして――クリスとギルマスの二人共、身一つで血戦闘技会なるものへ参加する為、旅へと出るのであった。
その頃――先に旅立ったスミスとカノンは、カノンからの質問攻めが始まっていた。
「で、結局のところ、血戦闘技会ってのはどこでやるんだよ?」
「行けば分かる、無駄口叩く暇があるなら、自分を鍛え直せ」
まあこの通り、スミスが答えてくれるとは限らないのだが。
「闘技会ってことは、どっかで大々的に開かれるんだろ?
そんなイベントがあるなら、噂にぐらいなってそうなもんだけどなァ?」
「アホか、客を入れて見世物にするのとは話が違う。
闇組織の序列を決める大会だ、参加者も、観戦者も――開催者も、全員が闇組織に関わる人間だけ。
わざわざ外に向かって宣伝するまでも無く、野心ある闇組織なら勝手にその存在に行き当たり、勝手に参加を望む」
「いやいや……アタシも、ちっとぐらいは裏のことに詳しいんだぜ?
だってェのに、聞いたこともねェなんて、おかしいだろ?」
「オレの片手で払われるような部外者の雑魚に、参加してくれと頭を下げる間抜けな組織が居るならそうだろうさ」
「てめェ……喧嘩売ってんのか――ンゲェッ!!」
次の瞬間、スミスの片手だけ凶我爆凄装による拳がカノンの腹を打つ。
「欲しいなら売ってやるから、黙って歩け」
煽るようなスミスの言葉にも、実力差で分からされたカノンは文句を言い返せず、ギリッと歯噛みしながらも大人しく従う。
そんな生意気なカノンを連れて歩きながら、スミスは思う。
(……さて、あれだけ発破を掛けたんだ。
奮起せんような男だったとは思いたくないが……いや、むしろ奮起してくれんと困るが……)
と、予想していた以上に腑抜けていたギルマスのことを思い返し、憂鬱になる。
元より――スミスもこのような作戦に乗り気ではなかった。
どう考えても無理筋な……言ってしまえば、帝国暗部に聖骸を対処する能力が無いと自白するも同然の、策とも言えぬ作戦である。
しかし事実として――旧体制時代の腐敗貴族の下で帝国国内の裏社会は肥え太り、革命で体力を落とした現在の帝国には、正しく締め付けるだけの戦力も無い。
正攻法で、地道に闇組織を潰していくような力の残っていない今――腐敗時代から革命期を越え、現在に至る今まで、増長し続け、血戦闘技会なる大胆不敵なものまで立ち上がるような始末であるからには、無理筋であろうと通さねばどうにもならぬ。
つまり、革命を乗り越え、未だ国力の回復していない帝国では、国が荒れることを正攻法で防ぐことなど不可能なのである。
故にスミスや――帝国革命期の英雄、革命の剣聖にまで協力を申し出なければいけない事態となっているのだ。
馬鹿げだ作戦だとは思いつつも、他に取れる手段が無いに等しい以上、上層部の語る馬鹿に乗る他無い為、スミスも自分自身に呆れつつ、無理を通そうと必死になっているわけだったのだ。
「――スキありぃッ!!」
と、ここでスミスの不意を突くように、カノンが背後から飛び蹴りを放つ。
これにスミスは慌てる事無く、やはり片手の凶我爆凄装で受け止め、カノンの足を掴むと適当に投げ飛ばす。
「どわぁぁぁあっ!?」
カノンは空中で体勢を整え、何とか着地。
「遊ぶようなら置いていくぞ、チビ」
言い放ち、スミスはカノンを無視して歩みを進める。
「てめェの方がよっぽどチビだろうがッ!!
ちくしょう、ぜってェ目に物見せてやるぜェ……ッ!!」
そんなスミスを、やる気満々で追いかけるカノン。
こうして――二組、四人はそれぞれ、血戦闘技会へと向かって旅に出るのであった。
冒険の始まりやね。




