第七話 凶我爆凄装
「――オイ、っていうかそもそも、ギルマスは怪我してんだぞ!?
何で戦う必要があるんだよッ!?」
カノンはスミスに向けて非難するようなことを言うが、これをスミスは鼻で笑う。
「ふん、本来のヤツなら、たとえ無刀であろうがこの程度で音を上げることはない。
落ちぶれたんだよ」
言いながら――スミスは懐から、何故かロリポップキャンディを取り出し、咥える。
「それとも……貴様が代わってみるか?」
挑発するように言いながら、カノンの方を見る。
「てめェ……舐めんじゃねェよ!!」
言って、カノンはスミスへと襲いかかり、拳を振り上げる。
だがこれを――スミスは余裕の表情で、なんと片腕だけを巨大化させ、凶我爆凄装を部分発動しただけで、容易くカノンを振り払う。
「――カハッ!?」
衝撃に息を詰まらせ、吹き飛ばされたカノンは、しかしその先でクリスに受け止められる。
「わ、悪いクリス……」
「ええ、今は大人しくしていなさいな」
言われ、バツが悪そうに俯くカノン。
クリスは大人しくなったカノンを慰めるように、頭をポン、と一度だけ撫でて――スミスとギルマスの戦いに目を向ける。
「どうした、剣聖。
引退して根性まで衰えたか、惨めなものだな」
「……うるせぇよ」
ギルマスは言い返しながら立ち上がり――鋭い殺気を放ちながら、架空の剣を正眼に構える。
「気迫だけは一人前だな」
「減らず口を……叩き切ってやる」
次の瞬間、ギルマスは魔闘術、義唱剣の技を放つ。
「――秘剣『一閃』ッ!!」
神速の剣技にて――刹那の間に間合いを詰め、殺すつもりでスミスへと斬りかかる。
だが……スミスはそんなギルマスのさらに上を行く。
次の瞬間にも斬られるか、といった間合いで、瞬時に凶我爆凄装を発動、超短距離での迎撃として、拳を振り下ろし、ギルマスを大地に叩き付ける。
ギルマスを超える超スピードで振り下ろされた拳により……秘剣『一閃』は破られた。
ドゴォッ、と轟音を立てて、ギルマスはスミスの足元に叩きつけられる。
「――『凶我爆凄装・弐式』。
接近する相手を後の先で打ち取る為、超近距離カウンター型として特化した凶我爆凄装だ。
貴様も見た覚えはあったはずだが……避けられも守れもせんとは、全く、情けなくて涙が出るよ」
言いながら、悲しむどころか蔑むような表情で、足元に屈したギルマスを見下ろすスミス。
「……『聖骸』はエリュシオンあっての組織、今勢いづいているのも、ヤツあってこその事。
下手に暗殺でもしようものなら、むしろ卑怯な手段に出た我々に対して、残る組員が暴発し、各所で暴れるリスクもある。
だからこそ血戦闘技会でヤツを打ち破り……革命期の伝説ここにあり、と知らしめ、ヤツに纏わる裏社会での神話のようなものに終止符を打つ必要があったんだがな」
これでは使えん、と言わんばかりに、ため息を吐いて話を終わらせる。
「――おい、待てよ!」
が、ここでカノンが話に割り込み、スミスの方へと歩み寄る。
「なあ、『聖骸』って組織は、そんなに危ねェのかよ?」
「無論だ、今は表に出ていないが、小さな集落単位で帝国市民を虐殺している事実すらある。
その上、ヤツらは出所不明の新技術で開発されたらしい違法薬物の流通にも深く絡んでいる。
現状では帝国暗部すら後手に回っている、でなければ俺がいて、わざわざこんな田舎に落ちぶれた、時代遅れの剣聖様を頼りになど来ない」
憎々しげに言い放つスミス。
この話を聞いて、カノンは考え、意を決したように言い放つ。
「だったら――アタシをその血戦闘技会ってヤツに参加させろよ。
エル兄さんがバカやってんなら、幼馴染のアタシが止めてやるのが筋ってもんだろ」
思わぬ提案を受けた為か、ピクリ、と僅かに眉を動かすスミスだったか、少し考えて――片腕だけの凶我爆凄装で、またカノンを打ち払う。
「グゲッ!?」
ズドォンッ、と壁に追突するカノンを横目に見て、スミスはため息を吐いてから、言い放つ。
「……はぁ、根性だけはありそうだ、血戦闘技会までの道中で鍛え直してやる。
耐えられると思うなら、好きに付いてこい」
言い残し、スミスは一人で勝手に歩き出し、病室のドアから律儀に出ていく。
「――血戦闘技会に必要なのは五人、あと三人を集めなければならん。
……お前が戦力に数えられたのなら、楽だったんだがな」
一度立ち止まり、ギルマスに向けて言い残すと、そのまま医院の廊下を歩き、バカ正直に出入り口へと向かう。
「修理代だ」
そして途中で医院に務める人間を見かけると、言って金貨を数枚、投げて寄越した。
一方、スミスの様子を呆気にとられながら見送るカノンであったが、付いてこい、と言われたことを思い返す。
「ま、待てよスミスさん!!」
カノンは慌てて後を追いかける。
が、途中で不意に気になって、後ろを振り返り、クリスの方を見る。
するとクリスは、行ってきなさい、と言わんばかりに頷いて見せた。
これをカノンも頷いて了承し――スミスを追いかけるのであった。
勝手に壊した病院に弁償しててえらい。




