第六話 血戦闘技会
――『血戦闘技会』、それは帝国の闇に生きる数々の組織同士で争い、頂点を決める為の、非合法な大会である。
古くより、数年に一度という頻度で開催されてきたこの大会にて、それぞれの組織が代表者を五人選出し、優勝を競う。
そして優勝した組織は、参加した全ての組織に対して上下関係を教え込んだに等しく――面子と暴力が支配する世界では、何よりも強固で高い名声が得られるのだ。
故に――血戦闘技会での勝利の為に、闇組織はあらゆる手段を使う。
事前に他の参加者を狙い、暗殺するなど序の口、争いが争いを呼び、数々の組織同士の大規模な抗争に発展し、それに巻き込まれた一般市民にさえ被害が出ることすらある。
それだけ血戦闘技会での優勝者というのは、帝国の闇に生きる全ての人々にとって、特別な存在なのだ。
「――そんな血戦闘技会で『聖骸』が優勝するようなことがあればどうなるか。
バカでも想像は難しくないだろう。
闇組織の中でも悪辣な類の聖骸が、今よりもさらに勢力を増し……やがては帝国全土を割るような争いにすら発展しかねない」
スミスは血戦闘技会というものについて説明した後、そう語った。
確かに――スミスの言うことが真実なら、聖骸が血戦闘技会で優勝するような事態は阻止せねばならない。
「けど……だからって、何でアンタがその血戦闘技会ってヤツに参加するんだよ?」
このカノンの問いに、スミスは答える。
「聖骸は恐ろしい組織だが、その権勢はほぼ頭首であるエリュシオンの力、カリスマ性に由来している。
だからこそ、血戦闘技会という闇組織の注目が最も集まる場で、エリュシオンを見せしめに殺す。
盛大に冷や水をぶっ掛けてやるだけで、増長する闇組織への抑止効果が十分に得られるはずだ」
スミスの唱える理屈自体は、カノンにも、そして大人しく話を聞いていたギルマスやクリスにも理解出来た。
「故に戦力としてこの腑抜け……かつて革命の剣聖とまで呼ばれた男を頼るつもりだったが、アテが外れた。
あれほど人を守ると、弱者を救うのだと息巻いていた男が、このザマだ」
スミスに言われ、ギルマスは言い返す。
「俺はもう、革命期みたいな争いには関与したくないんだよ……っ!」
「ほざけ、今更逃げて何になる?
挙げ句鈍った腕前で、のんびり辺境でお友達と仲良く暮らすつもりか?
だから腑抜けと言ったんだ……その程度の腕前で、平穏を守れると思い込んでいるのが、あまりにも下らない。
運よく貴様の身の回りの、知り合いの誰かが傷つけられることもなく余生を過ごせると、本気で思っているなら、俺がその思い違いを正してやろう」
言い終わるとスミスは、魔闘術を発動する。
途端に雰囲気が切り替わり、ギルマスとスミスの間に、一触即発の緊張感が走る。
「――この俺が狂犬と呼ばれた理由。
魔闘術――『凶我爆凄装』を、今の貴様に止めることが出来るか?」
次の瞬間――スミスはギルマスに向かって突撃する。
それと同時に、魔闘術による技を発動し――途端に、不思議な現象が起こる。
丸々と太った、小柄だったはずのスミスの肉体が大きく変化。
二メートルを超える巨躯に変わり、さらにはち切れんばかりに膨れ上がる筋肉。
別人としか思えないような姿へと変化し――そのまま、スミスはギルマスへと突撃する。
「グッ……!!」
咄嗟にギルマスは、魔闘術で架空の剣を作り、これでスミスのタックルを受け止める。
だが、それで勢いを殺すことは全く出来ず、そのままギルマスはスミスの巨体によって運ばれ、病室の壁を貫き、外へと吹き飛ばされた。
「なっ、何だよあの身体は……ッ!?」
スミスの変化を目の当たりにしたカノンは、驚きのあまり声を上げる。
「――暴力とは、緊張と緩和だ。
無駄な力みの無い状態から、瞬発的に筋力を総動員することで、最大限の出力を発揮する。
故に日頃から最大限、肉体を解きほぐし、緩和することで緩んだ身体を手に入れ――攻撃の瞬間にのみ、力むことで本領を取り戻し、莫大な出力を発揮する。
これが俺の魔闘術『凶我爆凄装』であり……この技による一撃で、複数の敵を纏めて喰らい、屠ることから付いた異名が『狂犬』。
――この程度の牙に喰らわれるようでは、ヤツは自分の抱える因縁と向き合うことすら出来まい」
(何しろあの頃――帝国革命期には、俺程度の戦士などゴロゴロ居たのだからな)
スミスは言葉の後に、そう胸中で付け加えると、既に緊張が解れて元のぽっちゃり体型に戻った状態で、壁の向こうへと意識を向ける。
そこには、辛うじて防御が間に合っただけの、突撃によるダメージで膝を突くギルマスの姿があるのだった。
血戦闘技会……バトルものあるある、トーナメント展開じゃないか!!
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