第五話 狂犬スミス
病室に入ってきた男の姿は――あまりにも奇妙だった。
身長は百四十センチ足らずで、カノンよりも低い。
体型は随分と太っていて、丸々、ぽよぽよしていて、まるで餅かスライムか、といった有り様。
顔立ちはブサイクなのか、整っているのか何とも言えず……クリスが咄嗟に、前世の記憶における『アメフクラガエル』を思い出してしまうような、ある意味では人間味は無いものの、愛嬌を感じる顔。
何よりも――そんな姿にも関わらず、妙に覇気があり、威圧感を放っていることが、最も奇妙な男であった。
「お前……スミスだな、どうしてここに?」
ギルマスはそんな男――スミスがここに居ることに疑問を抱き、口を開く。
「革命後、帝国暗部の上層部に所属したはずのお前が、なんで辺境に?」
「フン、口の軽い奴め、だからお前に会うのは嫌だったんだ」
スミスは言って、ギルマスを睨みつける。
そんな二人の様子を見て、カノンが尋ねる。
「あの……ギルマス、この人はどこの何方さん?」
「こいつは帝国革命期からの知り合いでな……当時は狂犬スミスと呼ばれた、ちょっとした有名人だよ」
「へぇ……ってことは、ギルマスみたいに強ェのか、この人も」
「こんな腑抜けと一緒にするな、チビ」
突然のスミスからの罵倒に、カノンはキレる。
「あぁ!?
誰がチビだ、テメェの方がアタシよりよっぽどチビじゃねェか……いててて!」
勢い余ってベッドから立ち上がり、傷の痛みに腹を抱えて蹲るカノン。
「ふん……バカは黙っていろ、俺はこの腑抜けと話があって来ただけだ」
言うと、スミスはギルマスの寝るベッドの前で口を開く。
「現在、帝国暗部はとある闇組織の台頭を阻止するため、ある作戦を遂行中だ」
「闇組織だぁ?」
訝しむカノンの声に、スミスは律儀に説明を挟みながら話を続ける。
「――『聖骸』、という名で呼ばれるその組織は、近年になって特に名を上げている極悪非道の反社会的組織だ。
暴力に薬物、違法奴隷の流通と何でもござれ。
今や貴族社会にすら食い込みつつあり、影響力を持ち始めている。
このまま見過ごせば、間違いなく帝国は荒れ、皇帝陛下の威光に影が差す。
そうなる前に対処をせねばならんから……戦力として貴様を頼ろうとしていたのだが。
この有り様を見るに、どうやら無駄足だったようだな」
スミスの言い草に、ギルマスではなくカノンがキレる。
「闇組織だか反社だか知らねェけど、ギルマスが力不足なんてことがあるかよ!?
この人、大抵の相手には負けねェと思うぜ?」
だが、これに呆れた様子で言い返すスミス。
「現に負けているだろうが、間抜け。
――貴様らがやられた相手、『聖骸のエリュシオン』。
それが闇組織『聖骸』の結成者であり、現在も頂点に立つ、頭首的な存在だ」
その名前が出てきたことで、カノンが驚く。
「そんな……あのエル兄さんが、闇組織のリーダーだってことかよ!?」
カノンの様子に、今度はスミスが驚く。
「そうか、貴様もあのエリュシオンと知り合いだったか……なるほど、つまり貴様が、エリュシオンと同じ村の生き残り、幼馴染の暗殺者『邪道』だな?」
「な、なんでそこまで知って……ッ!?」
「帝国暗部の調査力を舐めるな、その程度であれば調べはついている」
一度息を吐いてから、スミスは口を開く。
「エリュシオンが何故辺境に、と思っていたが、奴が幼馴染へ妙に執着していることは調べが付いていた。
要するにチビ、貴様が目的で、この腑抜けはついでとばかりに蹴散らされたわけだ」
つまり自分に巻き込まれる形でギルマスが怪我をしたのだと分かり、カノンは俯く。
「だが――不幸中の幸いだな、こんな役立たずを仲間に連れて行けば、作戦に支障が出ていた。
こうして予めエリュシオン自ら役立たずを選別してくれたのは僥倖だった」
スミスは言うと、責めるような視線をギルマスに向ける。
「全く、無様なものだな。
楽隠居を気取って剣を捨てたばかりか、ここまで鈍ってしまうとは。
本来の貴様なら、こんな無様な負け方はあり得なかったはずだ」
スミスの言い様に、ギルマスは言葉も出ないようで、無念そうに顔を顰める。
だが、この一方的に責めるスミスの態度が気に入らず、カノンがまたもや口を挟む。
「さっきから聞いてりゃ、勝手ばっかり言いやがって!
ギルマスに協力して欲しくて来たんなら、もっと態度ってもんがあるだろうが!!
そもそも、なんで協力なんか必要なんだよ、そんだけ言うほどアンタが強ェなら、自分でケツ拭きゃあいい話じゃねェのかよ!?」
これに、スミスは反論を返す。
「一人では、人数が足らん。
合わせて五人、必要なんだよ――『血戦闘技会』に出場するには」




