第四話 医院にて
次にカノンが意識を取り戻した時、最初に見たのはクリスの顔であった。
「気が付きましたか、カノンさん?」
クリスの気遣うような優しい声に、珍しいこともあるもんだ、と呑気に考えながらも頷く。
「ああ……ここは?」
「ギルドと提携している医院です。
騒ぎがあったと聞いて、駆けつけた所に貴方とギルマスが倒れていましたので……駆けつけたわたくしとフロリーナで運び込んだのですわ」
「そりゃどうも……って痛ェ!」
カノンは起き上がろうとして、腹の痛みに顔を顰める。
「まだ安静になさい。
フロリーナさんが治癒の精霊術で治してくれなければ、貴方、間違いなく死んでいましたのよ?」
「死んで……って、そりゃそうか、あんな怪我だもんな」
自身の内蔵を引きずり出される感覚を思い返し、ゾッとするカノン。
「ギルマスは?」
「――こっちで寝させて貰ってるよ」
カノンがクリスに問うと、同室の別のベッドから、ギルマス本人の声で応えられた。
「オレよりよっぽど酷い怪我だったんだ、人様の心配をしてる場合じゃないと思うぞ?」
「う、うるせえ!」
照れ隠しのように怒鳴ってギルマスに言い返すカノン。
こうして二人は無事だったものの……しかし、思わぬ強敵と遭遇し、命を落とす寸前であったことには違いない。
クリスは、敵について知らねばならなかった。
「カノンさん、貴方は一体、何者にそこまでやられましたの?」
問われて、カノンは言い難そうにしながら、しかし正直に事実を吐露する。
「あの人は……アタシとギルマスを襲った奴は、エルっていう名前の、昔は冒険者だった、幼馴染の兄貴さ」
カノンは、少しずつエリュシオンという人物について語る。
かつて幼いカノンが暮らしていた――魔物のスタンピードによって滅びた、開拓村。
そこは愚かな帝国貴族の対策不足により、防備が足りずに魔物の濁流に飲み込まれ、崩壊、消滅した。
この悲劇を切っ掛けにして、カノンは暗殺者の道を選び、そしてクリスと敵対する羽目となって、今や改心するに至ったのだが。
その開拓村では――魔物の被害への備えとして、村民の子供の中から戦士を複数人育てていた。
そんな戦士の卵たちの中に、かつてのエリュシオンは居た。
カノンにとっては、家が隣同士だったこともあり、物心付く前から一緒に育った、兄も同然の人物であった。
そんなエリュシオンは才能に優れていて、当時異例の若さで上位冒険者――Aランクの冒険者としてのライセンスを交付されたこともあって、領主からも一目置かれていた。
その関係もあり、開拓村を滅ぼすこととなるスタンピードのタイミングで、彼は依頼で呼び出されて領都におり、村を守ることが出来なかった。
スタンピードのことを知り、慌てて開拓村へと帰還し――自分と同様、村を離れていた為に偶然生き残ったカノンと二人、滅びた村の有り様を見ることとなる。
この時二人は、瓦礫の山と化した故郷で誓いを立てたのだ。
このような惨状を生み出した、悪しき貴族は必ず滅ぼす、と。
復讐を約束した二人は――カノンは暗殺者の道をゆき、そしてエリュシオンは冒険者を辞め、帝国の何処かへと姿を消した。
以来、行方知らずとなったエリュシオンとは、連絡を取ることも出来なかったのだが――今回、ようやく再会することとなった。
「――エル兄さんは、こんなことするような人じゃ無かった」
カノンは、悔しそうにしながら語る。
「確かにアタシと一緒に……貴族への復讐を約束したけど、貴族でも悪人でもない、無関係な人間を襲うようなヤツじゃなかったはずなんだよ。
それなのに、なんでギルマスを襲って、アタシを殺そうとするなんて……」
言葉に詰まるカノンを、クリスは気の毒そうに見つめる。
家族同然に育った幼馴染から、ある日突然殺されようとするなんて、どれほど恐ろしく、そして悲しいことだろうか。
今のカノンの胸中を推し量り、クリスはただ黙って、慰めるようにカノンの頭を撫でる。
「ちくしょう……ちくしょう……ッ!!」
カノンは感情が溢れ、涙を流しながら悔しがる。
――そんな医院の病室に、訪問者が現れる。
「ここに間抜けなギルドマスターが入院していると聞いた、失礼する」
そんな、聞き覚えの無い男の声が、病室のドアが開くと同時に響いた。
新キャララッシュやね。




