第三話 衝撃の事実
ギルドにて、カノンはギルマスの情報収集の結果を知るため、朝から待っていた。
だが……何故か昼前になってもギルマスは現れない。
あまりにも暇なものだから、ギルドを出て、近場を適当にふらつき始めるカノン。
「ったく、あのおっさん何やってんだよ」
遅れるギルマスに向けての悪態まで吐く始末。
随分と待ちくたびれた頃合いになって――カノンのところへ、ある人物が姿を見せる。
「――久しぶりだねえ、カノン」
それは、青い髪をした、細身の大男。
「――エル、兄さん!?」
カノンは混乱した様子で、青髪の大男……エルの名前を呼ぶ。
なぜなら、エルはその片手に――ボロボロな姿のギルマスを掴んで歩いており、荷物を引きずるような扱いをしていたからである。
「挨拶は大事だ、これは君にくれてやるよ」
言うと、エルは負傷し意識の無い様子のギルマスを、カノンの方に投げて寄越す。
「――ギルマスッ!?
おい、しっかりしろ!!」
カノンはこれを受け止め、ギルマスの容態を確認するが、どうやら死んではいないものの、意識が戻る様子は無く、随分と手酷く痛めつけられた様子。
ギリッ、と歯噛みしながら、カノンはエルの方へと向き直る。
「……おい、エル兄さん!
どうしてギルマスがこんな目に遭ってんだよッ!?」
カノンから非難されて尚、エルはまるで悪びれもせずに言い返す。
「おいおい、カノンこそどうしたんだ?
今や記録の中にしか残っていない、片田舎の開拓村でたった二人の生き残りだ、仲良くしようじゃないか」
この言葉が、さらにカノンの神経を逆撫でする。
「んなこたぁどうでもいいッ!!
説明しろっつってんだろうが!!」
「――腑抜けたねえ、カノン」
エルは、呆れたように言い切る。
「……は?」
「かつて共に貴族への復讐を誓ったはずの幼馴染が、今や辺境で仲良しごっこをしていると噂を耳にしてね。
まさかと思い、刺客を送り込めば返り討ち。
だからこうしてこの目で確かめに来たんだが……真実だったとは、本当に残念だよ」
残念、という言葉通り、本音から悔しそうに言いながら、エルはカノンに歩み寄る。
「君の幼馴染として、かつての同志として……この『聖骸のエリュシオン』が、引導を渡してやろう」
心底可哀想なものを見るような目で――エルは、いいやエリュシオンを名乗った彼は、カノンに殺意を向けた。
「な、なんで……なんでエル兄さんが、アタシを殺すってんだよッ!?
意味わかんねェ、ギルマスをこんなにして、それで、何が復讐に関係あるんだよッ!?」
「今のお前に何が出来る?
腑抜けがどうやって、貴族を打倒する?
――無理だよ。
だからせめて、懐かしい思い出の中で、美しいままじっと眠っていてくれ」
エリュシオンの滅茶苦茶な理屈に、カノンは首を横に振って拒否する。
「アタシの人生は、エル兄さんの自己満足の為にあるんじゃねェよッ!!
それに……今は昔よりも、随分戦えるようになったんだぜ?
いくらエル兄さんだからって、今のアタシを殺れるなんて、思い上がらない方がいいぜ!!」
カノンは言って――全力で駆け出す。
今や完成しつつある魔闘術を発動し、一度のステップで距離を詰め、エリュシオンを仕留めるべく拳を突き出す。
だが――エリュシオンは、まるで相手にしていなかった。
「……弱い」
カノンの、魔闘術により超加速された拳を、エリュシオンは片手で、パフッ、と容易く受け止めてしまう。
「なッ!?」
「今のお前では、そこで寝ているギルマスとやらにすら及ばない。
俺が『本当の力』を使って相手してやる価値すらない。
――で、思い上がり、だったかい?」
言いながら、エリュシオンはカノンの拳を握ったまま、グイッ、と持ち上げ、眼の前に吊し上げるような形を取る。
「ぐっ……クソッ、やめろッ!!」
「腑抜けて、友達ごっこで手に入れたらしい力ですら、この程度とは……心底残念だよ、カノン。
――さようなら」
次の瞬間――エリュシオンの、もう片方の手が、カノンの腹に向けて、手刀の形で突き立てられる。
ズプッ、と気味の悪い音を立てて、エリュシオンの手はカノンの腹に突き刺さる。
「――かはっ!」
痛みにカノンは声を漏らすが、エリュシオンはこれで終わらせる気は無かった。
そのまま――カノンの腹に手を突き刺したまま、捻り、潰し……内蔵を掴み取って、ズォッ、と引きずり出す。
最後には、ブチッ、と引きちぎって、カノンの身体から引き剥がし、適当に地面へとグチョッ、と投げ捨てた。
「にい、さ……」
「貴族への復讐は必ず果たす――地獄で待っていてくれ、カノン」
言うと、エリュシオンはカノンを掴む腕を離し、カノンはそのまま、ドサリ、とその場に倒れる。
明らかな致命傷を受け、意識が薄れゆくカノン。
(――なんで、エル兄さん、どうして……ッ!!)
藻掻き、答えを求めるように手を伸ばし――立ち去るエリュシオンの背中を見送りながら、意識を失うのであった。




