第二話 新たな異変
その後、カノンはサッと身支度をしてから、撃退した薬物中毒者の男を、ズルズルと引き摺りながらギルドを訪れる。
朝早くはあるものの、既に営業開始時刻であったお陰か、ギルドにはフロリーナ、そしてギルマスが既におり、そしてなんとクリスまで揃っていた。
「おうおう、なんだよお揃いで。
なんかあったのか?」
自分の事を棚に上げ、尋ねるカノン。
「実は朝から変な輩に絡まれてしまいまして」
「フロリーナ、嬢ちゃん、そして俺に加えてカノン、お前で四人目だな」
「……オイオイ、偶然にしちゃあ出来過ぎだぜ?」
どうやら、四人全員のところへ不審者が現れていたらしかった。
「なあ、その変な輩ってのは、薬物で能力を強化してる余所者だったりしねェか?」
「ああ、正にそのとおり、だから話をしなきゃなんねぇと思ってるところだよ」
ギルマスはカノンの疑問に答え……これからの対応について考え、口を開く。
「明らかに何者かの意図があっての関与があるんだが、薬中と余所者ってだけの情報じゃあなんも分からん。
ひとまず、それぞれ身の回りに注意しといてくれれば、情報集めはオレがやっておくよ」
要するに、特に打つ手らしいものも無く、普段通り過ごせということであった。
「……さすがギルマス、こういう時には頼りになるねェ」
「冗談はいい、ともかく薬物についても辺境で広まってるわけじゃないんだ、本当に出来ることは少ないから、余計なことはしなくていいからな?」
釘を刺すようなギルマスの言葉に、他三人も頷き、同意するのであった。
そうしてこの日、ギルマスは情報収集を開始したのだが……大したことは分からなかった。
ここ数日で、余所者の冒険者が何人も辺境都市に入り込んだことは事実として確認できたが、これも異常事態と言えるような規模ではない。
薬物についても、やはり辺境で流通している様子は無く、余所から来た冒険者本人が持ち込み、自分で服用している分しか存在していないと見られる。
また、不審な輩も最初の一回以降現れることは無く、誰かがギルマスや他三人を監視している様子も無い。
要するに――何も分かっていないに等しい状況であった。
こうして無為な調査で一日を終え、翌日。
つまらん報告を三人にしなければならないな、と若干憂鬱な思いでギルドに向かっていたギルマスは、不意に気付く。
何者かが――ギルマスの後をつけている。
「出てこい、何者だ?」
ギルマスが気配の主へと呼び掛けると――ゆったりとした拍手をしながら、その人物は姿を現した。
「嬉しいね、俺の気配に気付けるだけの実力があるというのは」
余裕綽々といった様子で姿を現したのは――青い髪の冒険者らしき男であった。
背丈はギルマスよりも更に高いものの、筋骨隆々というわけではなく、むしろ冒険者にしては細身なぐらいで、印象だけで言えば、決して強くはなさそうな男。
だが……ギルマスは本能的に、この男を最大限警戒していた。
「目的は何だ、何故オレの後をつけた」
「せっかちだねえ、上の者は余裕が無いと示しがつかんよ?」
「誤魔化すな、さっさと喋れ」
ギルマスの態度に、男は何が面白かったのか、クックック、と堪えきれない様子で笑いを零す。
「ああ、悪いね、単に愉快だったんだ。
俺を相手に偉そうな口を聞ける奴は久しぶりだったからね」
言うと男は――拳を構え、挑発するようにギルマスへ向けて言う。
「――さあ、やろう。
絶対的な力の差、というのを教えてやる」
この言葉に、ギルマスは若干苛つきながらも……架空の剣を腰から抜き、流派義唱剣の剣術で迎え撃つ。
「悪いが、簡単にやられるつもりは無い」
「こちらこそ済まない、簡単に終わらせてしまうことになる」
お互いに、挑発するような言葉を発して――二人が衝突する。




