第六話 VSグリフォン
「騎士さん、どういう状況ですかい!」
グリフォンと対峙するクリス、そして騎士のところに、危険を知らせてくれた冒険者が駆け寄る。
「こちらはクリスティーナお嬢様、逃げ遅れてしまったので応戦するッ!」
「へへっ、手伝いやすぜ!!」
言って、騎士と冒険者はそれぞれ武器を構える。
騎士は肉厚のブロードソード、冒険者は扱いやすそうなショートソード。
「グォオオオンッ!!」
そんな二人を見て、グリフォンは怒りらしき鳴き声を上げて――突撃。
グリフォンの巨体からクリスティーナを守ろうと、二人が体を張って突進を止めに入る。
「ぬおッ!?」
「グゥッ!!」
しかし――ドギャアッ、と轟音を立てて二人は吹き飛ばされてしまう。
グリフォンの突進は二人の献身によってクリスティーナには届かず。
「お二人ともッ!?」
クリスティーナは吹き飛んだ二人の方を振り向いて――意識が無い様子で、無抵抗にドシャッ、と地面へ墜落する様を見る。
「グルルルゥ……」
グリフォンは、もう守る者が居なくなってしまったクリスティーナと向かい合い、唸り声を上げる。
その鋭い、獲物というより憎き相手を睨めつけるような眼孔に、クリスティーナの背筋に怖気が走る。
「や、やばいですわ……」
じりじりと後退するクリスティーナは、縋るように意識を失った二人、騎士と冒険者の方を見る。
(わ、わたくしを守るために、こんな……)
二人を見て、尚更思う。
どれほど自分が守られてきたのか。
どんなに恵まれていたのか。
今こうして――命の危機に晒されて、はっきりと思い知る。
前世の記憶が戻るまで、自分という人間は最低だった。
それでも尚、これまでに出会った人々は皆、自分を大事にしてくれた。
この騎士と冒険者のように、時には生命まで懸けて守ろうとしてくれたのだ。
そんな人たちに――自分は、何のお返しもできない。
クリスティーナの胸に無力感が湧き上がる。
これまでの自分を支えてくれた全てに、何か返すべきだろうと思うのに、眼の前の脅威から逃れる術すらない。
何も出来ないまま、無力なまま命を落としてしまうだろう。
(けど――ッ!!)
無力だからこそ、ここで戦わねば。
(諦めてしまえば――皆さんの献身が、全て無駄になってしまいます!)
ここで死んでしまうのだとしても。
生まれてきて、ずっと貰い続けてきた全て――物、知識、愛情、そんな全てを。
自分から諦め、捨て去ってしまうような真似は、出来ない。
ニヤリ、とクリスティーナは笑う。
「来い、鳥頭ッ!!
わたくしは……決して諦めませんわよッ!」
この挑発に、意味を理解せずとも、グリフォンは乗った。
「――グォオオッ!!」
唸り、直後にクリスティーナへ目掛けて突撃。
「くっ!」
突進を目で見るよりも速く、動き出しの微妙な踏み込みを察知した時点でその場から飛び退いたクリスティーナ。
しかし、グリフォンの突撃は一瞬の内に……飛び退いたクリスティーナのスレスレを通り過ぎる。
(速い……先読みして動いても、ギリギリですわ!)
前世を思い出して以来、身体を鍛え続け――健康を手にした。
動体視力は前世よりも遥かに良く、グリフォンの動きを目で具に捉えている。
実戦経験こそ、遠い前世の記憶以外に存在しない為、かなり衰えていると言って良い状態だが。
それでも――前世まで含めて、クリスティーナは現時点が最もコンディションの良い状態だと言える。
だというのに、先読みにも成功して、完璧なタイミングで飛び退いて、それでもまだ紙一重での回避が精一杯。
(このままでは駄目ですわ、もっと、逃げるんじゃなく……こっちから、殺してやるつもりでッ!!)
キッ、とグリフォンを睨み、体勢を整えるクリスティーナ。
そしてグリフォンも突進の勢いのまま振り返り、再びクリスティーナへ目掛けて突撃してくる。
(今度は――逃げるだけじゃありませんわッ!!)
グリフォンの突撃を、先程以上の紙一重、掠ってケガを負いかねないほどのギリギリで回避する。
体毛が、羽根が、クリスティーナの服を、頬を掠める。
(ここですわッ!!)
そして同時に、クリスティーナは両手を伸ばして――グリフォンの翼から生える風切羽根を掴む。
ガシリ、と掴まれた羽根は、クリスティーナの握力に負けず、突進の勢いのまま掌を滑る。
鋭い羽根が――クリスティーナの柔らかな皮膚をズルリと引き裂く。
(――まだだッ!!)
咄嗟に走った痛みにも負けず、反射的に強く握り直すクリスティーナ。
途端――ブチッ、と音が鳴る。
クリスティーナの手が掴んでいた羽根が、根本から引っこ抜ける。
「ギャオッ!?」
翼に走った痛みに、グリフォンは驚きの声を上げる。
そして……下手人であるクリスティーナの方へと振り向き、怒りの目を向ける。
そんなグリフォンの様子を見て――クリスティーナは不敵に笑う。
「ふふ……いいツラするじゃあありませんか」
言って、引っこ抜いた風切羽根の付け根をグリフォンの方へと向ける。
「わたくしの力ではこれが精一杯、ですがお前自身の身体の一部ならどうです?
覚悟しなさい、鳥頭。
その生意気なツラに突き立てて、ドタマ貫いてブチ殺してさしあげますわッ!!」
やはりグリフォン、強いぜ……




