第四十九話 暗躍する者は
その後――二人は黒尽くめ達の死体を検分していく。
少しでも、彼らの正体について分かることがあれば、と思っての事だった。
「……やはり、こっちもですわね」
クリスは、また一人、黒尽くめの死体を検分しながら言う。
その死体には――正確には、黒尽くめの服の内側には、これまでの全員が例外無く、龍虎に十字の帝国を表す紋章を、上下逆さにした徽章が隠されていた。
見た限りは帝国の紋章であるものの、内側に縫い付けられた徽章もあり、それらから全ての紋章は上下が逆であると判断出来た。
「デザインは帝国のものですが……上下が逆ですわね」
クリスは訝しみながらも、検分を進める。
そうして――全ての死体の検分を終えて尚、結局逆さ紋章以外の情報は、何一つ得られなかった。
どこの誰が、こんな輩を動かし、わざわざギルマスを狙わせたのか。
――何も分からないながらも、クリスはどこかに存在するはずの黒幕に意識を向け、逆さの紋章を睨みつけるのであった。
事件から、幾ばくの時が過ぎた。
「――本国に情報を送り、クリスティーナを味方へと勧誘するはずでしたが……まあ、当然ですが失敗しましたか」
辺境都市から遠く離れた、王国王都のとある屋敷にて。
サリア・カスティーリャ男爵令嬢、つまり聖女が今回の企みについての報告書に目を通していた。
目を通す書面には――クリス本人、そして周囲の状況についての情報不足に対する苦言と、怒りの文言がつらつらと連ねられていた。
「元々はそちらの懸念に応えて立案した策ですのに……余計なことはするなと散々忠告しても聞かなかったくせして、今更文句を言われても困りますね」
はぁ、とため息を吐くサリア。
そして――精霊術を発動し、報告書に着火。
宙で燃やし切り、謎の組織とのつながりの証拠となりうる書面を、完全に隠滅する。
「居ますか」
「はい、ここに」
サリアが何処へともなく呼び掛けると、一人の黒尽くめが、どことも知れぬ場所から姿を表す。
「本国の要求は無視します。
あのクリスティーナ・ブーケンシャーが、この程度の搦め手で排除できるなら、私も苦労して追放刑になどしませんでしたから。
それよりも――彼女が明確に障害として立ちはだかるよりも先に、計画を前倒しで進めなさい」
サリアの言葉に、黒尽くめは問い返す。
「良いのですか?」
これに、サリアは頷いて答える。
「クリスティーナ・ブーケンシャーは、あの魔の樹海を使ってなお排除出来なかった難敵です。
今更本国が気にし始めたところで、どうにか出来る相手ではありません。
それよりも……彼女が障害として立ちはだかるよりも先に、我々の計画を可能な限り進めて、そもそも彼女が立つ機会を与えない。
電撃的に事を成す方が遥かに現実的で、有意義です」
この理屈に納得しつつも、黒尽くめはまだ問いを返す。
「ですが、本国が納得するでしょうか?
現状、計画に割くことの出来る余剰戦力も資産もありませんし、浮いている、使い道の無い戦力を動かして、かの侯爵令嬢にちょっかいを出すぐらいしか出来ることが無い、という見方も出来ますが」
これに、サリアは何ということも無いかのように答える。
「であれば、私が資産を提供しましょう。
王国で自由に出来る資産を、可能な限り本国に回します。
すでに王国内での私の地位も盤石ですし、聖女としての活動に必要な最低限さえあれば、こちら側でやるべきことは問題なくこなせます。
残りの資産を……そうですね、全て本国に送って構いませんので、計画を前倒しするよう要求なさい」
この発言に、黒尽くめも感激。
「聖女様……我らの悲願成就の為、まさかそこまで身を切っての協力をして頂けるとは!
その献身的とも言える高潔な精神に感服いたします」
これに、サリアは首を横に振る。
「他に私が欲しいものなど、何もありませんから、ただそれだけのことです。
では宜しく頼みますよ」
「はっ、お任せ下さい!」
サリアの要求に、意欲的な態度で頷く黒尽くめ。
ここで――ふと、サリアが気付いたように言う。
「そういえば、計画では帝国にて例の実験が進んでいるのでしたね?」
「はい、技術的には完成しつつあるのですが、今だに副作用が多く、臨床試験が必要な段階と聞いています。
この言葉を受け、サリアはしばらく考え込むような仕草をみせ――そしてニヤリ、と笑う。
「良いことを思いつきました。
どうせ事を起こすことになるのなら……クリスティーナ・ブーケンシャーも巻き込んでしまいましょう」
「はい?」
サリアの意図が分からず、聞き返す黒尽くめ。
「彼女も参加させてしまえば良いのですよ――『血戦闘技会』での戦いに」
こうして――外部の誰にも知られぬまま、クリスを巻き込む謀略が、サリア・カスティーリャによって企てられるのであった。
ここまでで第二章は終了となります。
☆一口メモ☆
聖女が何か悪そうなことを企んでいる……よし、普通だな。
面白かったという方は、よければブックマーク、評価の方をよろしくお願いします。
また、一日三話投稿は本日で終わりとなります。
一日三話投稿が終わるとどうなる?
一 日 六 話 投 稿 が 始 ま る 。
完結まで加速していくぞ~~~!!




