第四十八話 完全勝利
「ふッ……!?
ふざけるな、ふざけるなァッ!!
こんな、こんなことがあり得るものかッ!!
いくら貴様らが……英雄級の戦士であろうが、こんな、理不尽が、あってたまるかァッ!!」
残された黒尽くめは、理不尽のあまり慟哭する。
だが、これをクリスは退屈そうな目で見ながら、あくびを噛み締めるような表情で問いかける。
「――それで?」
黒尽くめは、懐から何かを取り出す。
「時代は変わり、技術は進歩しているのだッ!!
かつては一流の戦士だけが、天才的な感覚によって習得していた魔闘術すらも、今や科学的に解明が進んでいるッ!!
貴様ら、才能だけの英雄など、過去の遺物となる運命なのだッ!!」
言って――取り出したもの、魔道具らしき手袋を両手に嵌める。
「この手甲こそ、我が組織が開発した新装備ッ!!
装着者の闘気を補助することで、簡単な訓練だけで誰でも魔闘術を習得できるようになるッ!
当然この俺も……補助さえあれば、貴様らに劣らぬ魔闘術を扱えるのだァッ!!」
宣言通り、黒尽くめは身体強化を――魔力と闘気、それぞれに由来する形で発動し、同時に使いこなす。
事実として、彼は魔闘術を発動出来ていた。
だが、それでもクリスは退屈そうな態度を崩さなかった。
「――だから、それが何なんですの?」
「魔闘術さえ扱えれば……俺と貴様らの間に差は無いッ!
殺してやる……殺してやるぞ、古臭い英雄共めッ!!」
黒尽くめは、本来の目的も忘れたのか、クリスと、そしてギルマスへの殺意を露わにした。
理不尽な蹂躙劇を前にして、壊れてしまった彼を見て、クリスはため息を吐いた。
「御託は良いから、さっさと掛かってきなさい」
「――ッ!!」
次の瞬間、キレた黒尽くめはクリスに向かって拳を振り上げた。
確かに、彼の魔闘術は並の人間、並の冒険者、並の魔物であれば、一撃で屠るに足る出力を発揮していた。
魔闘術とは、それだけ優れた技術であり――使える者と、使えない者の間に、絶対的と言ってもいいほどの格差を生む。
だが――彼は、勘違いをしていた。
「一つ、魔闘術を使える者が特別なのではなく、魔闘術を習得するだけの修練に耐えられる者が特別なのです」
クリスは、彼の勘違いを正すように――眼前に迫りつつも、何故か静止して動かなくなった拳を睨みながら告げる。
「な、何故っ!?」
黒尽くめは、必死に拳を突き進めようとグッと力むのだが、それでもクリスに触れるよりも遥か手前、十センチほどの距離を空けたまま近寄れない。
「そしてもう一つ――ゴミがどれだけ着飾ったところで、ゴミに変わり無いのです。
魔闘術を使ってみせた所で、弱者は弱者のままですわよ」
言うと、クリスは闘気を放つ。
そう、黒尽くめの拳を、魔闘術による一撃を静止していたのは、クリスから溢れる闘気の壁であった。
桁違いの出力を持つ、クリスの力を前にして――黒尽くめの魔闘術では、虚空を貫くことすら出来ない。
「何故届かない……何故だ、何故だ何故だ何故だァァアアッ!!」
現実を認められずに喚き声を上げて、必死に力む黒尽くめであったが、やはりクリスの闘気に阻まれ、ギリギリと押し合いするまま動かない。
そんな男を嘲笑うかのように、クリスは続けて言う。
「ああ、もう一つありましたわね。
強い者が弱者を蹂躙するのには、魔闘術も何も――闘気すらも必要無い」
言うと、途端にクリスは、自身の放つ闘気を収めてみせる。
轟々と立ち上っていたクリスの闘気が、まるで酸素の途絶えた火が消えるかのように、フッと一瞬のうちに霧散する。
すると、黒尽くめの拳が、力みのままに動き出して、クリスの顔面へと――バチィンッ、と直撃する。
しかし――確かに魔闘術による強化を纏った拳は、一切の闘気を収めたはずのクリスの肉体へ直撃したにも関わらず、ダメージすら与えられなかった。
まるで時間でも止まったかのように、クリスの皮膚、表面に接触した瞬間、何の痛痒も与えられないまま、拳は静止していたのだ。
「……あ?」
何が起こっているのか、理解できず、唖然とする黒尽くめ。
拳を引き戻し、まじまじと眺めて……見たこと無いものへ興味を持った猿みたいに、呆然と観察する。
そしてクリスは、一切のダメージを感じていない様子で、ニヤリと笑う。
「さようなら、弱虫」
言うと同時に、クリスは構え、手刀を振り下ろした。
ザンッ、という音と共に、確かな手応えがあった。
そして数秒を置いて――脳天から真っ二つに引き裂かれた黒尽くめの肉体が、左右に分かれて倒れる。
遅れてブシャァアッ、と鮮血が吹き出し、まるで紅い簾のようになって宙に広がる。
そうして徐々に勢いを失い、床に血溜まりを作る。
決着である。
「……嬢ちゃん、手間掛けさせて悪かったな」
決着が付いたのを見て、ギルマスは助太刀に来てくれたクリスに謝罪する。
そんなギルマスに視線を送って、クリスは呆れたようにため息を吐く。
「はぁ……全く。
腕に覚えがあるからと言って、日頃怠けているからこういう目にあいますのよ?
精進なさいな」
クリスに言われ、ギルマスは耳に痛い、と言わんばかりの苦笑いを浮かべる。
「はは、全くそのとおりなんだが……嬢ちゃんぐらいの子に諭されるってのは、いい年したオッサンとしては情けないね、全く」
頭を掻きながら、ギルマスはため息を吐いた。
クリスティーナ鬼つええ!
もう全部この人だけでいいんじゃないかな?
あと、今日はもう一話投稿します。




