第四十七話 スーパー皆殺しタイム
クリスを狙って、黒尽くめ達はアサルトライフルを構える。
だが――無意味だった。
「遅い」
クリスは一言、そう告げて強く地面を踏み付ける。
その衝撃と同時に、まるで波のようにクリスの殺気が周囲へと広がる。
銃を構えたはずの黒尽くめ達は、しかしクリスの濃厚な殺気を浴びた瞬間、目眩のようなものを起こし、気分の悪さのあまり、アサルトライフルを取り落とす。
ガチャガチャ、と一人残らず武器を手放し、正体不明の吐き気からその場に蹲る。
そのうちの一人にクリスは近寄ると、頭を掴み、無理やり立たせるように持ち上げてから告げる。
「――『撃て』」
それは命令というよりも、逃避に近かった。
言われた黒尽くめにとって……命令されたから、というよりも、眼の前の現実、クリスという恐怖の象徴から逃避する為に、取り落としたはずのアサルトライフルを手に取った。
そして……言われた通り、アサルトライフルの銃口を自分以外の黒尽くめへと向けて、カチカチ、と震えのあまり歯を打ち鳴らしながら、引き金を引いた。
この一発が、仲間であったはずの黒尽くめの身体に着弾し、肉をグチャグチャに砕いて貫通し、致命傷を与えた瞬間、恐慌が起こる。
「――ウワァァァアアッ!?」
黒尽くめ達は、自分たちを裏切った一人に向けて、アサルトライフルを構え直し、一斉に弾丸をバラ撒く。
特別製の弾丸による斉射を受け、裏切り者はミンチ肉も同然のグチャグチャの状態になって、即死する。
それでも裏切り者への制裁は止まらず、弾丸は死体に向けて斉射され続ける。
この間に、クリスは人質へ寄ってゆき、拘束する縄を指で捻り千切って解放する。
「……あ、あの」
「お逃げなさい、後ろは気にせずとも良いですから」
クリスに言われて、解放された人質達は、次々とこの場を離れ、クリスが廃工場に空けた穴から外に出てゆく。
さすがにこの状況になると、黒尽くめ達の恐慌も収まり、事態を理解して慌てていた。
「に、逃げるなら撃つぞッ!?」
脅しの言葉と同時に、アサルトライフルを逃げる人質の背に向けて構える。
事ここに至って尚、クリスは焦らない。
「撃てるものなら、どうぞ?」
どころか、黒尽くめ達を煽ってみせた。
たまらず、黒尽くめの一人が人質に銃口を向け、引き金を引いた――はずだった。
だが、本人も理解できない内に、銃口の狙いは人質の方から、クリスへと向け直して発砲された。
「――は?」
無意識の内に、クリスへと照準しなおして放たれた弾丸は……クリスの差し出した指先で、ちょん、と突き出すだけで迎撃される。
弾かれた銃弾は――クリスが狙った方へと弾き飛ばされ、また別の黒尽くめの眉間を正確に貫いた。
何が起こったのか――何故、ただ逃げる人質の背中に向けて銃弾を放つという、それだけの、簡単なことすら出来ないのか、理解できずに唖然とする黒尽くめ達。
そんな様子を見て、凄惨な笑みを浮かべながら、手頃な廃材に腰を下ろして、クリスは言う。
「このわたくしを前にして――お前達程度の羽虫に自由意志が許されると思わないことですわね。
何処を狙う、いつ、誰に向けて引き金を引く……その程度のことすら、わたくしが望むとおりに支配されているのだと理解しなさい」
ワケの分からんことを言うな――と、黒尽くめ達は言い返したかった。
だが、その言葉を発しようとした瞬間に、言葉は詰まって喉より先に出てこない。
自分自身の身体を、自分自身の意思で操るという――たったそれだけの、誰にでも出来るはずのことすら、今やクリスの前では不可能となっていた。
――『心法』と呼ばれる、武術に含まれる一つの技法。
それは自身の心を自在に支配することにより、心が身体を操るものなのだから、結果として思い通りに自身の肉体を動かす、身体操作の極意の一つとも言うべき技術である。
だが――心を支配する術を極めるということは、他人に向けて応用する技術にも通づる。
即ち自身の肉体を自在に操る術を極めた武術家は――他人の心にすら干渉し、さながら催眠術か何かのように操る術すら手に入れることが出来る。
クリスもまた、そういう域に達しているだけであって、魔術の類を使っているわけではなく、故に彼らは、クリスの思うがままに心を支配され、身体もまた同様に支配されているのだ。
クリスと同様、心法を鍛え、極めることでしか、この支配から逃れる術は――無い。
「次は貴方」
クリスに指定された一人が、引き金を引く。
ダァンッ、と弾丸が放たれて、クリスがこれを弾き、また一人を殺す。
「次はそっち」
また同じように、別の黒尽くめが支配され、そして一人殺される。
「今度はお前」
何度も、何度も――クリスに言われるがまま、彼らはアサルトライフルを撃って、弾かれて、仲間を殺した。
心が折れ、これ以上は止めてくれと願っても……身体は言うことを聞かない。
一人、また一人と、仲間の放つ凶弾に倒れていく。
惨めにも……自分たちの用意した武器で、自らの手で、全滅への十三階段を上がっていく。
そうして、最後の一人になって、クリスはようやく、自由を許す。
「――さあ、後は貴方だけですわ。
言い残したことがあれば、おっしゃってください」
自由を取り戻して尚――彼の手に残されたものは、絶望だけであった。
強い!
こんだけ強いと、心法を信奉しちゃうね、なんつってwwwwww
うん・_・




