第四十三話 革命の剣聖
――帝国革命期。
かつて帝国を支配していた、旧体制側の貴族達の多く、中でも帝都に近い領地を持つ貴族に多かったのだが、腐敗していた彼らを、革命軍は武力によって制裁した。
中でも英雄と呼ばれる程の結果を残した、一騎当千の兵が居たのだが……そんな中でも、格別に名高く、革命軍は愚か、帝国全土に名を轟かせたのが『革命の剣聖』と呼ばれた男である。
対峙した全ての敵を切り捨て、必ず殺す、絶対の局所的勝利を齎す存在。
戦術、戦略における、本来ありえないはずの『絶対』を成立させたイレギュラー。
それが、革命の剣聖と呼ばれた伝説の剣士。
彼一人の存在が、革命軍の勝利を一年早めたとも、彼無しでは革命軍に勝利は無かったとも言われる程の……圧倒的強者。
その剣技は神速にして一撃必殺、柔軟にして剛毅。
一切の隙が無い必殺剣の使い手として噂されていたが、その戦いぶりを見た敵対者が尽く殺されている為、具体的にどのような剣術の使い手であるかはあまり知られていない。
ただ――その圧倒的な『剣技』だけが噂として独り歩きし、かつての革命軍の間で実しやかに囁かれていた。
かの剣聖は――無刀にして、剣術を扱う、と。
剣も無しに人を斬り殺せるのだ、と。
「帝国の剣聖無くして、現在の皇帝が実権を握ることはなかった……そう言われる程の人物が、何故このような辺境に!?」
黒尽くめは驚きの声を上げる。
かつての革命により、当時の皇帝や貴族の多くが実権を失い、現在の帝国議会の上院と下院によって治められる形となった。
その立役者たる革命の剣聖であれば、現在の帝国でどのような地位を手に入れていてもおかしくない。
それこそ……上院を占める革命側の貴族や、下院を占める富豪達の、誰もが剣聖の力と功績をよく知っており、だからこそ怖れてもいるはずなのだ。
そのような状況で、かの人物が、まさか辺境のたかがギルドマスターという役職に収まっていることは、あまりにも不合理であった。
「引退した、って言っただろ?
それにオレは、もうウンザリなんだよ、他人の都合で人を斬るのは」
革命後、剣聖は行方不明となった、と言われていたし、これを黒尽くめ達も情報としては知っていた。
だが……そんなものは欺瞞情報に過ぎず、実際はどこかの有力者が囲い込んでいるものであろうと、誰もが思っていた。
それがまさか、辺境で若隠居をしていようとは、未だに信じられない気持ちが強かった。
とはいえ――眼の前の人物が革命の剣聖と呼ばれた豪傑、英雄であることに違いは無く、つまりは戦って勝てる相手ではないことは事実。
黒尽くめは全員が引け腰となり、ジリジリと後退を始めていた。
「……失せろ。
お前らみたく『魔闘術』も使えないような奴らでは、革命期の英雄、誰一人として傷つけることは出来んよ。
それだけ、あの戦乱の時代を戦い抜いた人間と、お前達の間には格差がある」
言うと、ギルマスは殺気を飛ばしながら、黒尽くめ達に向かって凄んで見せる。
魔闘術、とは、帝国では一流の戦士の証とされる技術である。
通常、身体強化とは魔術、魔力によって行われるのだが、それに頼ることなく、己の肉体を鍛え上げた者だけが、闘気による身体強化という選択肢を得る。
そして――両方の身体強化を高い練度で扱える戦士だけが、二つを同時に発動し、身体強化を重ね掛けするような形で使用出来る。
この技術を――闘気と魔力を同時に扱い、戦いに生かす技術全般を、帝国では『魔闘術』と呼んでいるのだ。
ギルマスが使えるのは無論の事、例えばクリスによって酷く扱かれたカノンもまた、魔闘術と呼ぶに値する技術を体得しつつあり、これがあるからこそ、実力が飛躍的に上昇し、魔の樹海の魔物を狩るレベルにまで至ったのだ。
それだけ――単に魔力だけ、あるいは闘気だけで肉体を高めるよりも、遥かに優れた出力が得られるのが、魔闘術である。
クリスのような例外的な異常者を除いて……基本的には、魔闘術の使い手に、そうでない者が勝つことは愚か、傷を付けることすら出来ない。
魔闘術の使い手にとって、そうでない者を屠るのは、それこそ文字通り、赤子の手をひねるより簡単なことでああった
当然、黒尽くめ達もその程度の常識は理解していた。
故に、逃してくれると言うなら……否やという理由も無かった。
「……その判断、後悔することになるぞ」
吐き捨てるように言い残し――黒尽くめは、この場を立ち去るのであった。
――こうしてギルマスは圧倒的な力の差を示し、黒尽くめ達を撃退した。
だがこの選択は――殺さずに逃す、という選択をしたことは、後に裏目となり、ギルマス自身を追い詰める結果となる。
ぽっと出のモブかと思っていたギルドマスターが最強だった件について。-今更戻ってこいと言われてももう遅い、俺は辺境でスローライフを満喫する-
ってコトォ!?




