第四十二話 さらなる襲撃者
フロリーナの家を離れてからすぐに――ギルマスを、何者かが狙い、後を付けていた。
(フロリーナを狙っていた奴らの仲間か?)
ギルマスは見当を付けながら、戦いやすいよう、人目が無く、周囲に被害が出ない程度に広い場所を探して歩く。
そうして――裏路地の中でも、比較的大きな通りに差し掛かったところで、立ち止まる。
「そろそろ、正体を現したらどうなんだ?」
ギルマスが、追跡者に向けて呼びかけると、何処からとも無く、黒尽くめの男達が姿を見せ、ギルマスを取り囲んだ。
その動きと、そして装備を見て、ギルマスがあることに気付く。
「……お前ら、『帝国暗部』だな?
現皇帝の懐刀として働いてきたはずのお前達が、どうしてこんなことをする?」
帝国暗部――それは、かつての帝国革命期に、当時の体制側と戦った勢力、つまり現在の皇帝側に付いた、諜報組織の中でも特に優れた集団であった。
当時、体制側と革命側で倍以上の戦力差があったものの――暗殺に限らず、多種多様な情報戦を仕掛け、体制側の指揮を崩壊させた。
その功績もあり、革命が成った側面もある為、現在でも帝国暗部は諜報組織の中でも高い地位にあり、陰ながら帝国各地の不穏分子に対処している。
そんな――現在の帝国における、ある意味では公的な機関であるはずの帝国暗部が、一般人に過ぎないフロリーナを狙う理由が、ギルマスには分からなかった。
一方、ギルマスに通常では知られるはずのない情報を勘付かれたことに驚き、僅かばかり動揺が走る黒尽くめ達。
だが、即座に冷静さを取り戻し、告げる。
「我々の目的は交渉だ、貴様達と敵対するのは本意ではない。
だが……そこまで知られたとあっては、生きて帰すわけには行かなくなった」
言って、それぞれに武器を構える黒尽くめの男達。
「しかし、一瞬でそれだけの情報を見抜くとなると、貴様もかつては革命軍に属していた帝国人なのだろう?
ならば我々の求める……クリスティーナ・ブーケンシャーとの交渉材料を提供してくれるのならば、見逃してやっても良いぞ」
黒尽くめからの提案があったものの、ギルマスには全く魅力のない提案であった。
さらには……彼らの目的がクリスにあることが分かったのは、収穫と言って良かった。
であれば尚更、頷くわけにはいかない。
「断る。
嬢ちゃんもどうやら、結構なワケありっぽくてな。
せめて少しでも、そういう人間の穏やかな暮らしを守ってやりたいってのが、オレの信条でね」
言って――ギルマスは臨戦態勢を整える。
「ごく普通の、当たり前の日常ってやつが、どんだけ尊いものか。
革命軍だったなら、尚更分かるだろう?
ましてや元々病弱で、立場にも縛られて、自由のない生活をしていたヤツにとって、辺境で自由に生きられるってのは……オレみたいなオッサンが、命を掛けて守ってやるに値すると思わねぇか?」
ギルマスの言葉も虚しく、黒尽くめ達は引く気も無かった。
「――構わん、屈服させて従わせろ」
次の瞬間、ギルマスと黒尽くめ達の戦いの火蓋が切って落とされる。
途端、黒尽くめ達が一斉にギルマスへ近づこうと駆け出すが、これを制するようにギルマスが技を放つ。
「秘剣『斬水』!」
剣を抜き放つような動作と共に――まるで本当に剣を手にしているかのような動きで、足元の土を円状に薙ぎ払う。
すると――ギルマスの放った力が、土埃を攫い、まるで水面を打ち払い水飛沫が上がる時のように、周囲へと弾ける。
黒尽くめ達は、この技によって一度に追い払われてしまう。
「――ッ、この技は!?」
黒尽くめの中の一人が何かに気付くが、それを口にするより先にギルマスの追撃が始まる。
「秘剣、『咬合』ッ!!」
剣を象る動きは変わらず、ギルマスはまず下から切り上げるような仕草で腕を振るう。
すると、見えない架空の剣から力が放たれ、下顎の牙が獲物に噛みつくような動きで、黒尽くめの一人を狙い撃つ。
そして――牙が当たる寸前になって、ギルマスは架空の剣を翻し、上から切り下ろす。
宛ら上顎の牙で迎え撃つような力の奔流と、下から来る力とに挟まれ、標的は――黒尽くめは牙で噛みつかれたような傷を受け、負傷し、後方へと吹き飛ばされる。
こうして包囲が崩れたところで、ギルマスは更に追撃。
「――秘剣『一閃』!」
腰だめに、架空の剣を構えるギルマス。
そして力を一気に解放すると――目にも止まらぬ速さで駆け抜けながら、軌道上に居た黒尽くめ達を纏めて横一文字に斬りつけていく。
移動しながらの斬撃でダメージを与えつつ、包囲を突破するギルマスの動きに、黒尽くめの誰一人として反応出来ていない。
「……やはり、その技、間違いないッ!!
ヤツの正体は――『革命の剣聖』だッ!!」
ギルマスの技を見て、勘付いた様子の黒尽くめが……警戒を促すように叫ぶ。
包囲を抜けたギルマスは、困ったような、しかし余裕のある笑みを浮かべながら振り返り、言った。
「悪いな、どっちも引退したんだ。
革命も、剣聖もな」
☆Q&A☆
Q.革命の剣聖が居るってことは、革命のじゃない剣聖もいるってこと?
A.たぶん居ないと思う……。




