第四十話 何者なのか?
「ギルマスですか?
どうぞ、ご自由に入っていいですよー」
なんてことも無いように言って、フロリーナは自らギルマスを自宅へと招き入れた。
「……失礼する」
ギルマスは言って、ドアを開いて入室し――中の惨状にギョッとして、しかし言葉を飲み込む。
「最近になって、ちょくちょく半グレ共が姿を消す事件が多発していてな。
どうも気になってオレも個人的に調査していたんだが……半グレ共の消失時刻になると必ず、なぜか誰にも、何処に居たか認識されていない不思議な受付嬢がいることに気付いてな」
これを受けて、まあっ、と驚いたような表情を浮かべるフロリーナ。
「どう考えても関連性が深いと思ってな、お前のことを調べに来たわけだ。
――ついでに言えば、ギルドの書類上、記録の上では、フロリーナなんて受付嬢は『存在しない』ことになっている。
いつの間にか、当たり前みたいに紛れ込んで、誰にも疑われることなく、受付嬢として嬢ちゃんに接触したのが最初の活動。
――何者だ、お前は?」
ギルマスは警戒を露わにしつつ――臨戦態勢を取る。
だが、これにもフロリーナは動じず、何でも無いことのように笑って見せる。
「うふふ、調べようと思っただけで、こんなにあっさり見つかるなんて。
ギルマスって、私の予想より随分優秀だったんですね?
でも――人の素性を、一方的に尋ねるのはどうかと思いますよ?
素性を探られたくないのは『お互い様』でしょう?」
フロリーナの言葉に、ギルマスは眉を顰め、嫌がる素振りを見せる。
「それは……」
「ああ、ごめんなさい、言わなくていいですよ?」
言うとフロリーナは警戒など全くせず、ギルマスに近づく。
「ちょっとした冗談です、からかってごめんなさい。
悪気は無かったんですよ?
それに自分は、そこまで素性を隠したいわけでもないですし」
フロリーナの発言を、ギルマスは訝しむ。
「……どういうことだ?」
「気になるなら、お話しますよ、私の素性?」
無防備に、全て受け入れる様子のフロリーナに、ギルマスは一部警戒を解いた。
臨戦態勢は解除し、フロリーナの話を聞き入れる姿勢を見せ、手近な椅子に座る。
「……話せ、オレが納得できるように、できる限りの全てをな」
ギルマスの要求に、フロリーナは頷き、そして話し始める。
「簡単に言うと、私って精霊なんです。
元々は実態がないものですから、血肉になるものをたっぷり食べないと、身体を維持できないんですよ。
ここに『置いてある』のは、そのための食料ですね、死んだほうがいい輩なので、受肉の為に再利用しているんです」
言って、証明して見せるかのように、フロリーナは風の刃を飛ばし、暗殺者の身体の一部を削ぎ落とす。
傷口を治癒し、肉片を切り刻み、吸い込んで咀嚼、といういつもの流れをやってみせた。
これにギルマスは不快感を覚え、露骨に顔に出すものの、止めるようなことはしなかった。
「……属性は、風と治癒か?
二つも司っているなら、相当な高位の精霊だろう?
何故、こんなことまでして受肉する必要がある?」
この問いにも、フロリーナはあっさりと答える。
「クリスさんに興味があるからです。
少しでも近くであの子の様子を見ていたいので、こうして人の形を取らせていただいてます」
フロリーナとしては真実を話しているのだが、しかし、この回答にギルマスは納得しなかった。
「それはおかしい。
だって――嬢ちゃんは『魔力欠落』だろう?
精霊が好むような存在であるはずが無い」
この言葉を受けて、初めてフロリーナが、鋭く咎めるような視線をギルマスへと向けた。
何者なんだ……?
このギルマス。こういう調査もしっかり出来るなんて……。




