第三十八話 腹一杯
森の主との戦いから一週間後。
負傷していたカノンも、魔術を使った治療もあり全快、目的であった森の主の肉もしっかりと処理し、熟成させ、最も美味しい状態で食べる準備が完了した。
こうしてついに、ギルマスを招待しての食事会が開催されるのであった。
場所は、いつもの食堂――クリスが泊まる宿に併設される食堂に、一同四人が集まっていた。
「……で、なんでアタシはこんな格好をさせられてんだよ!?」
と、怒りの声を上げたカノンが着せられていたのは、なんとメイド服。
それも貴族に仕える使用人が着るようなしっかりとした物ではなく、歓楽街の女達が遊びで着るような、妙に露出部の多いものであった。
「お料理を提供するのでしたら、使用人が必要でしょう?」
クリスは当然、といった様子で言うが、半分はカノンを誂う気持ちもあるのが丸わかりの表情でもあった。
「だったらてめェも着ろや!!」
「嫌ですわ、何故わたくしが使用人の格好を?」
わざとらしく嫌がって見せるクリスだが、ビキニアーマーを着ているような人間の言う言葉には説得力が無い。
「では、クリスさんの分も私がご奉仕いたしますね♥」
そんなクリスに擦り寄る、メイド服姿のフロリーナ。
「――で、結局これは何の集まりなんだ?」
わけが分からず、根本的な疑問を口にするギルマス。
「いつもお世話になってるギルマスを労おうってだけだよ、まあ座ってな」
「そうか……まあ、そう言うなら」
カノンに言われ、ギルマスは大人しく席に着く。
同様にクリスも席に着き、カノンとフロリーナが厨房に向かい、料理を運んでくる。
「こいつがあの、『森の主』の肉を使った、ビーフシチューならぬゴリラシチュー!!
そんでローストビーフならぬローストゴリラ、そしてトドメの特大ゴリラハンバーグだァッ!!」
デデデンッ、と巨大な皿に盛り付けられた三品の肉料理がテーブルに乗せられる。
「こりゃあ……また、随分と珍しいもんを用意したんだな?」
「さあ、早速頂きましょう?
ほら、カノンさん、フロリーナさんも座りなさいな」
クリスの言葉に、カノンは目を見開く。
「アタシも食って良いのか!?」
「貴方が狩ってきたのですから、当たり前でしょう?
それに、一人で食べるより、みんなで食べたほうが楽しいですもの」
言われて、カノンは鼻頭をこすり、笑みを浮かべる。
「そういうことなら遠慮なく……」
こうしてカノンも席に着き、当然の顔をして席に付いていたフロリーナも合わせ、四人が一つのテーブルを囲む。
「では――いただきます、ですわ」
クリスの一言で食事会は始まった。
「悪いが、箸は無いか?
オレはそっちの方が慣れてるんだ」
ギルマスは、カノン達に代わって給仕をする、食堂の本来の従業員に向かって頼む。
従業員は頷いて、箸を取りに向かうが、これを見てカノンが首を傾げる。
「箸を使うって、けっこう珍しいな。
帝国だと、東の端っこの方だけの文化だろ?」
この問いに、ギルマスは頷いて答える。
「まあ、そんな感じだ。
生まれは普通に帝国なんだが、育ちがそっちの方でな」
「ふーん……あ、クリスてめェ、ローストゴリラばっかり取るんじゃねぇよ!!」
「残念、こういうのは早いもの勝ちですわよ?」
一口で十枚以上のローストゴリラを口に含み、モッチャ、モッチャと咀嚼し、一瞬で飲み込むクリス。
「さすがクリスさん、豪快で素敵な食べっぷり♥」
言いながら、フロリーナもまた、ゴリラハンバーグを次々ひょいひょいと口に運んではほぼ丸呑みかというペースで飲み込んでいく。
異様なスピードで食を進める二人に、カノンは無論、ギルマスまで呆れた視線を向ける。
「おめェら、どんな口と胃袋してんだよ……」
「同じ人間とは思えんな」
二人の様子に気付いたフロリーナは、にっこりと笑って告げる。
「ちゃんと、血と肉になっていますよ?」
「聞いてねェし、だから何なんだよ……ったく」
呆れながらも、食べねば勿体ない、と言わんばかりに、ゴリラシチューを取り皿にたっぷりよそうカノンであった。
そうしてこの日――限界以上に食べたカノンは、結局帰る気力も沸かず、クリスの部屋に泊めてもらうこととなった。
たらふく食って、満足げな顔で、膨れた腹に手を乗せた状態で、クリスのベッドを占拠し、眠るカノン。
そんなカノンの様子を見て――優しげな笑みを浮かべるクリス。
「おやすみなさい、カノンさん」
言って、さら、とカノンの髪を軽く掻き分けるように撫でた後、クリスはソファの方へと向かい、そちらで眠ることにするのであった。
仲良しやね^^




