第三十六話 死闘の最中
森の主の攻撃を受け流し、内蔵へと通る打撃を打ち込む――これら二つの技術により、カノンは拮抗した戦いを繰り広げていた。
何度も、何度でも、森の主はカノンをミンチにしようと拳を振り回し、叩き付ける。
だが、カノンも負けじと受け流し、時に技が甘く、吹き飛ばされることはあるものの、致命的なダメージだけは避けながら戦えていた。
また、そうして隙の大きい一撃を森の主が放つ度、カノンは距離を詰め、内蔵へと通る、浸透する打撃を打ち込み、ダメージを通す。
戦いは成立していた――が、それでも尚、森の主が有利であった。
カノンが通すダメージと、受けるダメージでは、受ける方が上回っており、しかも肉体の強度で言えば森の主に軍配が上がる。
このまま持久戦に突入すれば、カノンが敗北するのは、誰の目にも明らかであった。
ただ――相手は魔物、人間のように理性で戦いを組み立てるとは限らない。
森の主は、このまま削り切るような戦いを選ぶことも出来たが、しかしカノンから受けるダメージに対する怒りが上回った。
「グォォオオッ!!」
雄叫びを上げ、拳を振り下ろす。
「――フッ!」
カノンはこれまで通り、受け流して懐に潜り込もうと踏み込む。
だが――焦れていた森の主は予想外の行動に出る。
「――シャァッ!!」
態勢を崩しながらも、口を大きく開き、接近するカノンに向けて、噛み付き攻撃を繰り出していたのだ。
これにカノンも接近してから気づくも――時すでに遅し。
「グアァァアッ!?」
ゴリッ、と音を立て、森の主の顎が、カノンの肩骨を砕く。
痛み、そして負傷の大きさから、カノンは悲鳴を上げるが、このままされるがままでいるわけにも行かない。
噛み付きから逃げる為――森の主の眼球へと、無事な方の腕で打撃を加える。
「ギャウッ!?」
反射的に森の主は顎を解放し、カノンから逃れるように顔を反らした。
だが同士に……カノンを真横から引っ叩くような動きで、反撃を放った。
単なる打撃ならまだ良かったのだが、森の主はカノンに掌を直撃させると、そのままガッと握り込む。
腰を丸々捕まれ、理外の膂力で握り潰されるカノン。
「――ウアァァアアッ!!」
ポキ、ポキッ、と、あちこちの骨が折れる音がして、カノンは叫び声を上げた。
森の主は、そんな声を上げる、憎き標的を掴んだまま、睨みつけるように顔を寄せる。
そしてこのまま殺してしまえ、と言わんばかりに、握る力を込める。
このままでは負ける――と理解しているカノンは、しかし、死中に活を見出した。
森の主は怒りのあまり、カノンの苦しむ姿を見ようと、顔を近づけていた。
その眉間に――つまり、奥にある脳へと衝撃の浸透する打撃を叩き込めたなら、可能性はある。
そう判断して……カノンは残る力を振り絞る。
全身から魔力を振り絞り、身体強化の出力を、過去に経験が無いほど高める。
するとカノン自身も不思議なほど、力は高まってゆき、火事場の馬鹿力とでも言うべきか、負傷した身体で力み、無理やり森の主の掌をこじ開けた。
「オラァァァアアアッ!!」
直後、カノンは飛び上がり――出来うる限りの全力を乗せて、森の主の眉間へと拳を叩き込む。
グシャァッ――と森の主の眉間が、そして同様に限界以上の威力を発揮したカノンの残る無事な拳までもが、潰れる音が響く。
森の主は、背中からズンッ、と倒れ、カノンは満身創痍ながら、ギリギリで着地し、立ち上がる。
「……まだだ、まだ終わっちゃいねェ」
言う通り――森の主は倒れ、ビクビクと痙攣しているものの、まだ死んでは居なかった。
この戦いは殺し合いなのだから、命を奪ってようやく決着である。
カノンは倒れる森の主へと歩み寄り、最早両腕とも潰れた状態にも関わらず、追撃を加えようと試みる。
「くたばれ、エテ公……ッシャオラァアッ!!」
気勢を上げ、カノンが繰り出したのは――まさかの頭突き。
本来頭蓋は脳を守る鎧に過ぎず、武器として使うには不適切であるのだが……それでも唯一無事と言って良い部位の為に、カノンは自身の額を、森の主の潰れた眉間へと叩き込んだ。
グチャッ、と音を立てて、致命的な一撃が、砕けた骨が脳へと捩じ込まれる。
この一撃で、森の主の身体は大きくビクリッ、と跳ね上がり――それを最後に、動かなくなった。
対するカノンも満身創痍であり、馬鹿力で放った頭突きの反動で、意識まで朦朧としていた。
「へへ……アタシの、勝ちだ」
それだけ言い残して、意識を失い、前のめりに倒れるカノン。
その身体を――スッ、と割り込むように、静かに支えに入るクリス。
「よく頑張りましたわね」
労うようなその言葉が届いたのか、否か。
分からないが……しかしカノンが、自信に満ち溢れた笑みを浮かべながら気絶しているのには変わりなかった。
☆一口メモ☆
異世界なんで骨が折れてもすぐ治ります。




