第三十四話 気分上昇
「あんな暗くてウザい雰囲気を続けられても嫌なんで、ギルマスをみんなで元気づけませんか?」
優しいのか残酷なのか分からない言い草で、フロリーナが提案する。
「面白そうですわね。
わたくしは賛成ですわよ」
クリスはフロリーナの提案を受け入れる。
「いや、元気づけるっつーのには賛成だけどよぉ……。
具体的に、何するってんだよ?」
カノンの問いに、フロリーナは自信有りげに答える。
「ふっふっふ、私の知識をナメないでください。
人間を元気づける方法なんていくらでも知っていますよ。
例えばそうですね……針を落として、音を鳴らして、パーリナイすれば気分が上々にブチ上がるらしいですよ? チェケラッチョ」
言いながら、フロリーナはどこからともなくサングラスを取り出し装着する。
「チェケラッチョって何だよ……」
「そのサングラス、DJのつもりでしょうけど、間違っていますわよ?」
カノンとクリス、両方からツッコミを入れられ、却下されるフロリーナ。
しゅん、としながらサングラスを外す。
「そうですか、ではカマすのは却下ということで……。
となりますと、他にはメンヘラには日光が効く、という説もありますね。
病んでいる時ほどしっかりと朝起きて、ご飯を食べてお散歩して、日光を浴びることで元気になると言われています」
この提案に、クリスが首を横に振る。
「俗説ですわ、根拠がありません。
そもそもギルマスは普段からちゃんと生活して日光を浴びていますし、先程のアレも元からメンヘラなんじゃなくて、単に地雷を踏まれてヘラっただけと思いますわよ」
「ではいっそのこと、お腹いっぱい、お値段の張るお食事をしてもらって、普通に元気をだしてもらうという作戦はどうでしょうか?」
「なんだよ、フツーのこと言えんなら最初っから言えよ」
カノンはツッコミつつも、フロリーナの意見には賛成であった。
「では、魔の樹海でしか取れない食材をわたくしたちで狩るのはどうです?
それを宿の食堂で調理してもらって、ギルマスに振る舞いましょう」
「さすがクリスさん、最高のアイディアです♥」
「……ちょっと待て、狩りってことはまさか?」
カノンの疑念は鋭く、当たっていた。
「もちろん、カノンさん一人で戦ってもらいますわよ?」
「……ちくしょう、そういう流れになんのかよっ!」
既にギルマスを元気づけよう、等という提案に賛成したことを後悔しそうになるカノンであった。
翌日、カノンはクリスと共に、また魔の樹海へと向かっていた。
ギルマスの為に美味い魔物を狩る、という目的もあるが、ついでとばかりにクリスが試験を課してきた。
これまで訓練で培ってきたものを、全て出しきってみせろ、と。
故に標的は、カノンの全力で勝てるか勝てないか、といったラインの強さがある魔物の中から選ばれた。
その名も――通称『森の主』。
魔の樹海の浅い域に生息する魔物の中でも、最上位に位置する、ゴリラの魔物であった。
ある冒険者は、『森の主』についてこう語った。
「魔の樹海に生えてる植物ってのは、どれもこれも最高級の素材ばっかりだ。
そんで、森の主っつうゴリラの魔物は、肉は食わねえ。
魔の樹海の植物の中でも、さらに選りすぐりの、最高レベルの木の実や植物しか食わねえ。
そのお陰で、ゴリラなのに何故か肉が滅茶苦茶美味えってことで、有名なんだよ。
で、どうしてそんな生態をしてるかっつーと、群れを作るんだよ、森の主は。
正確には、主と同系統の、より弱い、下位に属するゴリラの魔物を従えてやがるんだわ。
奴らは集団で餌を集めに集めて、中でも最上級のものだけを森の主が食う。
下位のゴリラは余り物を食う、っていう流れなわけだ。
つまり、森の主を狩ろうと思えば、まずは群れを蹴散らす必要がある。
こっからして、もう無謀な話だろ?
下位とは言え、魔の樹海の魔物だ、桁違いにつえぇ。
例えばな……ある冒険者パーティが、肉欲しさに挑んだことがある。
けどな、最初に盾で攻撃を受け止める奴が、真っ先に倒れたんだ。
いや、正確じゃねえな、本人は無事だったんだけどよ。
握り潰されたんだよ、ソイツが持ってたタワーシールド。
こうなっちゃあ、もう諦めるしか無かったって話だぜ。
で――そういうヤツを何十匹も相手して、ようやく森の主と戦う権利が得られるってわけだ。
そんなバケモンを狩ってこようだなんて、正気の沙汰じゃねえって思ったね。
さすが『死神』クリスとその弟子だ、って話題になったんだよ。
あ? そうか、この異名はすぐに使われなくなったヤツだったな。
ほら、暗殺者を容赦なく皆殺しにしたことあったろ、それで『死神』ってわけよ。
ともかく、森の主を狩るってことで、話題を掻っ攫ったのは本当だぜ」
ゴリラ肉……美味いんか?
食ってみてえなあ。




