第三十三話 ヘラるギルマス
魔の樹海での活動を終え、ギルドへと帰還したクリスとカノン。
「お帰りなさいませ、クリスさん♥」
いつも通り、ウキウキで迎えるフロリーナ。
「なんか……こうも対応が違うっていうか、無視までされるといっそ清々しいな」
「お褒め頂き、ありがとうございます」
「褒めてねェ、嫌みだよ嫌み!!」
「はて?」
カノンの嫌みが通じてない様子で、首を傾げるフロリーナ。
「――苦労してるみたいだな、カノン」
言って、姿を見せたのはギルマスであった。
「クリスの嬢ちゃんに加えて、様子のおかしいフロリーナまで相手するのは大変だろう?」
「あぁ……ギルマスが理解してくれるだけでもありがてェよ……」
何やら共感しあう二人。
「それに、修行も随分頑張っているみたいだし、強くもなった。
昔とは見違えるぐらいだよ」
「いやいや昔って……ギルマス、アタシの戦うところなんかほとんど見たことねェだろ?」
カノンは疑問に思い問うが、ギルマスは言葉に詰まる。
「ああ……いや、ここで言うのもな。
まあ、ざっくり言うと、気配遮断の魔術を見破るぐらいなら、オレぐらいのレベルになると普通に出来るってワケよ」
「――は?」
ギルマスから、思わぬ角度の言葉をぶつけられて、混乱するカノン。
気配遮断の魔術に言及するということは……つまり『邪道』として活動していた頃の、暗殺者としてのカノンの姿を知っているということにもなる。
「一応言っとくが、これでもオレ、ギルマスだからな?
嬢ちゃんが来るまでは、辺境で最強の人間だったんだぞ?
気配遮断の魔術ぐらい、見破る術はいくつも持ってるさ。
まあ、それでもカノンの場合はかなり苦労したほうだけどな」
「えっと、あの……その、ですね?」
突然のことで、あまりにも混乱し過ぎて、ワタワタと何を言うべきか迷うカノン。
「ああ、安心しろ。
今更お前の昔の活動についてとやかく言うつもりは無い。
殺ってきた相手も相手だし、オレだって人の事を言えないぐらい、殺して来てる。
これでも帝国革命期を生き抜いた人間だからな、気分の悪い人殺しだって、何度も経験したさ」
気遣うようなギルマスの言葉を受けて、ようやく落ち着きを取り戻すカノン。
「んじゃまあ……お言葉に甘えさせてもらいます」
「おう、気にせず今後は真面目にやりな」
ポン、とカノンの肩を軽く叩くギルマス。
「ふふ、カノンさんはおっちょこちょいですね。
他にも気付いてる人はいると思いますから、普段から気を付けておいた方がいいですよ?」
と、ここでフロリーナまでカノンの正体に気づいているかのような口ぶりで話す。
これにカノンは目を見開いて驚き、ギルマスの方を見つつ、フロリーナをずいっと指差すが、ギルマスは首を横に振る。
「話すわけねぇだろ。
フロリーナに関しては考えるだけ無駄だ、忘れとけ。
それにコイツが言うほど、知られてるわけ無いから安心しな」
「よ、良かったぁ……!」
「んー?」
胸を撫で下ろすカノンと、納得していない様子のフロリーナ。
「……しっかし、ギルマスってホント良いヤツだよな。
変な説教とかもしねェし、優しいし、人の秘密を言いふらさねェし。
クリスに扱かれてボロボロになってる時も気遣ってくれるし、マジで理想の上司って感じだよな?」
カノンは同意を求めるように、クリスとフロリーナへ視線を向ける。
「気遣いの出来る、素敵なおじさんですわね」
「ふむ、こういうおじさんが優しい人って言われるんですね……私、覚えました!」
同意してくれるクリスと、意味不明なことを言い出すフロリーナ。
「――だったら、良かったんだがなぁ」
だが、当のギルマス本人が、納得していないかのようにボヤく。
「オレなんか、優しくないさ。
中途半端で臆病で……人様の不幸から目を逸らすことも、直視することもできないだけの未熟者さ」
嘆くように、懺悔するかのように言ってから、ギルマスは奥へと引っ込んでいく。
「……え、急にヘラるじゃん。
なんで?」
困惑し、驚くカノンであった。
☆一口メモ☆
現実のメンヘラおじさんには需要が無い。




