第三十二話 異常な二人
辺境にて活動する、とある高位の冒険者が、ある時見た光景について語る。
「俺みたいな高位の冒険者でもよ、魔の樹海で採集するってのは、命懸けなわけよ。
そもそも、魔の樹海っつっても入口も入口だけどな?
それでも命懸けってことにゃあ変わりないわけよ。
でもよ、どうだ?
あん時俺が見たのは、魔の樹海の魔物相手に『狩り』をする姿だったわけよ。
んなこと、あり得るかよ?
しかもだよ、クリスちゃんは自分で狩りはしねえ。
弟子にやらせて、自分は後ろから見てるだけときた。
鬼畜だぁ、って思ったね。
いや、弟子への当たりがキツイ、って意味じゃねえよ。
見てるだけなのに、それだけで何よりも恐ろしくてよ。
絶対に近づいちゃいけねぇ、って怖気が走ったね。
そんなヤツに後ろから見られて、魔の樹海の魔物とも戦って。
あん時は、心底気の毒に思ったもんよ。
ともかく、絶対に近づいちゃなんねえって本能が働いてよ。
俺が見たのはそこまでだったね。
それこそ……魔の樹海の主にでも出くわしたみたいな緊張感があったからな。
そんな時、冒険者に出来ることは一つきり。
逃げるってヤツさ」
この日――クリスはカノンを連れて、魔の樹海まで狩りに出向いていた。
ここ数ヶ月、訓練漬けの日々を過ごしていたカノンだが、実戦経験はさほど積んでいない。
そこで、実力に合った魔物との戦いを経験させよう、という魂胆から、魔の樹海を選んだのだ。
当然、クリスは狩りを手伝わない。
その上で――二人は冒険者としてパーティを組んでいるので、ちゃんと収入は折半される。
カノンを鍛えつつ、自分は戦わず、お金を貯めるという、一石三鳥のプランであった。
「オイッ!
戦わねぇのはまだいい、でもよぉ……素材の処理までアタシに全部やらせるのは違うくねェか、なぁ!?」
キレながらも――自身が仕留めた、猛禽類に似た姿の魔物の処理を進めるカノン。
この魔物は落星鷹と呼ばれる、名の通り落ちるような勢いで上空から舞い降り、星のように煌めく鋭い爪で獲物を仕留める、危険度の高い魔物である。
これとカノンは、四苦八苦しながら格闘し――最後には感覚を掴み、目に見えぬほど速い急降下攻撃にタイミングを合わせたカウンターで仕留めたのだ。
首はへし折れているものの、それ以外の部位に傷は無い。
故に、丁寧に処理して持ち帰ろうとしていた。
「わたくしよりも、カノンさんの方が上手じゃありませんか。
役割分担というヤツですわ」
「てめェがそこを分担しなかったら、全部アタシがやる羽目になんだよォ!!」
キレながらも上手に魔物を捌き、内蔵を処理していくという器用な芸当をこなすカノン。
「貴方の修行の為に来ているのですから、戦うのは当然でしょう?」
「そっちじゃねェ!
せめて解体を手伝いやがれって言ってんの!!
なんもしねーのに、素材の売上半分持ってくとか、詐欺だろ詐欺!!」
「そんなの、コーチング料に決まっていますわ。
わたくしの指導が受けられて、その程度で済むのですから安いものでしょう?
……それに、名誉貴族になるにはお金が要りますし」
最後に小さく、本音混じりの言葉を呟くクリス。
「ちくしょう……いつかぜってー見返してやるかんな……っ!!」
そうして魔物の処理が終わり、背嚢に納めて立ち上がるカノン。
「っていうか、てめェが戦ってるところ、まともに見たことが無ェんだよな」
「あら、わたくしカノンさんと戦ってあげたでしょう?」
「竜牙刃ぶっ壊す時以外、手抜きだったじゃねえか」
フッ、と不敵な笑みを浮かべるクリス。
「――何を言うかと思えば。
その瞬間だってたっぷり手抜きでしたわよ」
「自慢げに言うことじゃねェだろ!
っていうか、だったら尚更、戦って無ェじゃねえか!!」
言って、カノンはボヤく。
「……ったく、たまにはしっかり戦って見せてくれよ。
師匠なんだろ、アタシの」
不貞腐れるように言うカノンを見て、クリスはニコニコと笑顔を浮かべる。
「まあっ、カノンさんもついにわたくしを師匠と認めて、デレてくれましたのね!」
「うるせぇ、デレてねぇ!!」
ボコッ、とクリスを殴るカノンだが、クリスにはまるでダメージが無い様子。
ただ……殴った時の手応えが、昔とは違うことは実感できた。
「――まあ、確かに強くなってるしな。
アンタのこと、アタシなりに感謝はしてるし、師匠として認めてもいるよ。
修行だって厳しいけど、強くなるってのがこんだけ楽しいんだから、悪い気もしねェしな」
照れくさそうに言うカノンは、客観的に、誰の目で見てもデレていたし、クリスにはバレバレであった。
「うふふ。
可愛らしいことを言っても、修行は手加減しませんわよ?」
言いながら、カノンの頭を撫でるクリス。
「あー、やめろ撫でるな!!
ってか誤魔化すなし!
お前も戦え、そんで解体も手伝え!!」
「そんなの嫌ー、なのですわ」
首を横に振り、拒否するクリス。
とまあ、このように二人は、魔の樹海にあって尚、和やかに話が出来る程度には余裕があった。
それだけカノンが成長し、強くなったという証でもあった。
☆一口メモ☆
魔の樹海に自信ニキ、実は辺境にはけっこう居る。




