第四話 初めての街歩き
近頃は随分と健康になり、屋敷の敷地内を自由に出回る許可が出たクリスティーナ。
そんなクリスティーナが、ある日の夕食の席にて。
「おとうさま! おかあさま! 街を見てみたいのですわ!」
姿を見せた途端、そんなことを口走るクリスティーナ。
「あら、どうしたのかしら?」
「クリス、まずは席に座りなさい」
「あっ、そうでしたわ!」
父に促され、席に着くクリスティーナ。
「では――。遍く世界を見守る天と地の精霊王よ、その慈しみと恵みに感謝します」
「かんしゃしますわ!」
祈りの言葉を捧げてから、食事を始める。
そしてクリスは、手を付けるよりも先に、途中になった話の続きを語る。
「わたくし、ようやく元気になってきましたので、そろそろ領地のみなさまがどのようにくらしているのか、知りたくなってきたのですわ!」
「成る程、街を見てみたいというのはそういうことか」
納得したように頷く父。
「では、馬車と視察先の手配をしましょうか」
母が言うと、しかしクリスティーナは首を横に振る。
「いいえ、おかあさま。わたくし、じぶんの足でまちを見たいんですの!」
この言葉に、父と母は二人共首を傾げる。
「自分の足で、とは?」
これに、クリスティーナは答える。
「だいじな場所も、そうでない場所も、ぜんぶ自分の目で見たいんですの!
ですから、騎士もメイドも不要です、わたくし一人であるいてまちを見たいのです!」
この言葉には、顔を顰める二人。
「それはいけません、一人で街を歩くなど、さすがに危険すぎます」
母が言い、父も同意する。
「私も同感だな、クリスティーナ。
せめて騎士を一人だけでいいから連れていきなさい」
クリスはこの言葉に、不満げな表情を見せるものの、交渉の余地は無いと悟る。
「はぁい、わかりましたわ」
「うん、素直なのは良いことだ」
「では、後日街へ視察に出られるよう手配をしておきましょう。
こうして、父母の了承を得たことで、クリスティーナの初めてのおでかけが決定したのである。
後日、クリスティーナは騎士一名を連れてブーケンシャー領都へと出かけていた。
「ほわ~、めっちゃ発展してますの!」
「アハハ、お嬢様は街に出てくるのは初めてですもんね、すごいもんでしょう?」
「ええ、とってもすごいのですわ!」
お付きの騎士と共に街の大通りを歩きながら、クリスティーナは周囲を見回す。
煉瓦造の立派な建築物が、整然と立ち並ぶ町並みに、馬車が何台も同時にすれ違ってまだ余裕のある大通り。
町並みを彩る街路樹、往来を行き交う人々、そして彼ら彼女らを相手に呼び込みを掛ける屋台。
単に美しいだけでなく、賑やかで、豊かな街であることが見て取れる光景であった。
「お~い、そこの騎士さん!
こいつを貰っといてくんな!」
そんな声が屋台の方から聞こえると、赤い色の果実が騎士に向かって投げ込まれる。
騎士はこれを受け取ると、声のした屋台の方に呼びかける。
「ありがとう、でも今日はもう一つくれると助かる!」
「もう一つ……っておい、隣にいるのはクリスティーナお嬢様じゃあないか!!」
屋台の店主が気付いたように声を上げると、辺りの人々も一斉にクリスティーナの方を向く。
「おお、マジじゃねえか!」
「姿絵とそっくりそのままね!」
「本当に可愛らしくて、素敵なお方だわ!」
街の人々は、そんな声を口々に上げ、注目する。
「わ、わたくしのことをみんな知っていますの?」
困惑するクリスティーナに、騎士はニコリと笑って答える。
「ええ、お嬢様の姿絵があちこちの公的機関に飾られておりますからね。
下手をすれば、御領主様よりもずっとよく知られておりますよ」
見ず知らずの人々によく知られている、という不思議な感覚に、そして向けられる敬愛の感情に、むず痒くなるクリスティーナ。
「お嬢様、こちらの果実もお召し上がり下さい!」
「俺のところのパンも美味いですよ!」
「お飲み物はウチの喫茶店のものをどうぞ!」
よって集って、クリスティーナに貢物をしていく人々に、アワアワと慌てるクリスティーナ。
「あ、ありがとうございますわ!」
そして馬鹿正直に、渡されるものを全て受け取る。
「ぐ、ぐぬぬ……!」
そうして、両手いっぱいに抱えられた貢物で、身動きが取れなくなってしまう。
「あはは、お嬢様、私も半分持ちますよ」
「た、助かりますわ……!」
騎士の助け舟が入ったことで、ここでようやく、一人で街に来なくてよかった、と思うクリスティーナであった。
おいお前ら、クリスティーナお嬢様がいらっしゃったぞ!(貢物を抱えながら)




