第二十七話 人質作戦
暗殺チームをカノンが撃退した、その日の夜。
正面から戦っても勝機は薄いと判断した暗殺チームは、人質を取ってクリスの動きを封じる作戦に出る。
そして、人質に相応しい、クリスと交流があり、かつカノンよりも実力で劣ると判断された人物が二人選ばれ――襲撃を受ける羽目となった。
うち一人が、冒険者ギルドのギルマスであった。
冒険者としての活動を現在は行っておらず、戦えたとしてもブランクがあり、カノンよりは脅威度が低いと判断された。
故に――三人がかりであれば確実に勝てると踏んでいた。
だが、その予想は容易く裏切られる。
「……誰だ、隠れてやがるな?」
夜、自宅への帰り道、明かりのない場所で、ギルマス以外に人影が無いにも関わらず、気配を察知する。
この時、三人の暗殺チーム――リーダー格の男、老人、若者の三人は、それぞれ姿を隠しながら驚愕する。
通常の気配察知では、彼らの気配隠匿技術を見抜くことは出来ないはず。
だというのに何故――その疑問を抱いた三人に、偶然にも、ギルマスが答えを独りでに呟く。
「悪いが、そういうのは帝国革命期に見覚えがあるんだ。
相当な手練れのようだが……コツさえ掴めば見抜けないレベルじゃあない」
この言葉により、三人は自身の技術が単純には通用しないことを悟る。
「壁抜け、地走、影潜り……全部、帝国革命期に起こった貴族暗殺の手口としては定番の技だ。
あれから時代も進んだ、今どきそれだけで隠れきれるとは思わないことだな」
ギルマスの言葉に歯噛みしながらも、事実見抜かれてはいる様子なので、三人は意を決する。
それは……姿を消した状態からの、連続攻撃。
気配を察知していると言っても、正確に全てを把握できているわけではない。
見えない相手からの、連携の取れた三連続攻撃であれば、さすがに通用するだろう、と踏んでの判断だった。
だが……甘すぎる。
「はぁ、言われてもまだ分からんか。
お前らみたいな暗殺者は、もう時代遅れなんだよ。
魔術頼りの、それも古臭い隠匿技術は、現代では通用しない。
単に姿を消すだけの魔術じゃなく、今どきの暗殺者は気配そのものを操るのが主流だ。
……前線から離れすぎていたみたいだな」
ギルマスの言葉は、図星であった。
近年は帝国を離れ――魔術文化の浅い王国で活動を続けていた為に、彼ら三人の魔術は既に時代遅れとなっていたのだ。
だが、自らの技術に自信が、自惚れがある三人は、ギルマスの言葉をそのまま受け取ることは出来なかった。
つまり……実力差があると突きつけられて尚、現実を受け止められなかった。
故に――作戦決行。
最初に地走、地面に潜り姿を消す魔術の使い手である、若者がギルマスへと襲い掛かる。
地面の中から飛び上がり、足元からナイフで襲う。
内腿等の、血管の集中する致命的な部位を傷つけられたならば良し、そうでなくても、回避によって大きく姿勢を崩せば、残る二人の追撃によって仕留められる。
そういった算段のある一撃であったが――ギルマスには通用しなかった。
「――フンッ!!」
地面から若者が飛び出るのに合わせ、かかとでナイフを弾くように蹴るギルマス。
そのまま若者の拳を踏み躙り、粉砕。
「ギャアッ!!」
痛み、ダメージから魔術を維持できず、地面から弾き出されるように飛び出す若者。
続けて第二撃――影潜りの使い手、リーダー格の男が、ギルマスの影から飛び出る。
背後からの、ナイフによる一撃。
だが、これもギルマスは読んでいた。
ギリギリ、スレスレのタイミングでひらり、と身を翻しながら突きを回避し、即座に男のナイフを握る手を掴んで、捻ってナイフを取り落とさせる。
「ぐっ!?」
「寝てろ」
ギルマスは、男の手を掴んだまま投げる。
力技ではなく、技術による姿勢崩しを掛けてからの投げ。
まるで男は自ら飛び退くような自然さでグワンッ、と投げ飛ばされ、背中から勢いよくズドンと落下し、衝撃で息が詰まる。
そこへ――最後の一撃、壁抜けの使い手である老人が、壁の中に隠れたまま吹き矢を放つ。
独自に調合された猛毒を含む針が、ギルマスへ目掛けて飛来する。
が――無駄。
結局、攻撃の起こり、殺気、気配といったものを読み取られている為、ギルマスにとってみれば「これから撃ちますよ」と言われてから撃たれたような感覚であった。
上着を脱ぎ、翻して、針を巻き込むようにして叩き落とす。
万が一にでも、針の飛んでいった先で、偶然の被害者が出ないように、という配慮であった。
「無手相手には離れていればいい――なんて、時代じゃなくなってることも分からないなら、引退したほうがいい。
――秘剣、『流星』ッ!」
ギルマスは言って――技の銘を告げ、攻撃を壁の中の老人に目掛けて放つ。
距離があるにも関わらず、ギルマスが銘を告げたと同時に、老人の身体を不可視の力の奔流が襲う。
宛ら、上空から降り注ぐ流星のように、老人の身体は叩き伏せられ、傷つけられる。
結果、壁抜けの魔術を維持できなくなった老人が、壁から弾き出された。
「……貴様らにどういう目的があってオレを襲ったのかは知らん。
今は見逃してやろう。
だが、また襲撃があるようなら、次からは容赦せんぞ」
ギルマスは言って、三人の暗殺チームに向けて鋭い視線を放つ。
自分たちが、戦って敵う相手ではない。
そう悟った三人は……標的でもないギルマスを襲うことは不合理と判断し、それぞれの魔術を発動し、この場から離れるのであった。
こうしてギルマスは無事、暗殺チームを退けたのだが、もう一人の人質候補はどうなったのか?
それは、ギルマスが暗殺チームに気づいたのと同時刻に遡る。
☆一口メモ☆
ギルマス、なんと実はモブキャラじゃなくて、固有の技まで持っている主要キャラだった。
この作品、カテゴリー的にはファンタジーよりアクションの方が近いな、と思い直したのでカテゴリタグを修正しました。




