第二十六話 反撃開始
カノンはまず、ジャグリングの男に迫る。
「コッチに来ルカぁ!!」
当然、ナイフを、それも次々、計七本を投擲して迎撃する。
だが――カノンはこれを、容易く回避して見せる。
複雑な軌道を描く七本のナイフを、足を止めることも無く、前進しながら回避する。
上手く懐に入り込むカノン。
「――甘イなぁ!!」
だがジャグリングの男は、まだナイフを隠し持っていた。
隠しナイフを取り出して、無防備に喉笛を晒すカノンの、首筋を切り裂こうと一閃。
しかし、ここまでもカノンの読み通りだった。
「悪いね――同業者なもんでさ」
ギリギリのタイミングで、ナイフの軌道から身を捩って回避していたカノン。
カノン自身が暗殺者であったからこそ、ナイフ技術に関しては理解があった。
故に、相手が高いレベルでナイフを扱うと分かっているからこそ、あえて弱点として首筋を晒し、攻撃を誘った。
完全に騙されたジャグリングの男は、空を切り、態勢が悪く、反撃、防御の手札を失う。
「――ハッ!!」
カノンは男の鳩尾へと、体当たりするような勢いで肘打ちを叩き込む。
訓練の成果もあり、カノンの膨大な魔力で強化された身体から繰り出される一撃は、意識を奪うに十分な威力があった。
ドゴォッ、と音を立て、ジャグリングの男は吹き飛びながら、既に意識を喪失しており、戦線から離脱する。
ただ、敵は彼だけでは無い。
決着の瞬間、隙を狙って、女が狙撃銃を発射する。
跳弾よりも、最短での着弾を狙っての銃撃。
ドォンッ、と放たれた弾丸は――無念、カノンを貫くことは無かった。
女が狙撃銃を放つ直前に、弾道を避けるように、身を躱していたカノン。
「チッ、ならば!!」
女は舌打ちすると、今度は連続で弾丸を放つ。
全て、跳弾させながらカノンを狙う、直線では軌道を把握できない射撃であった。
だが……これも、カノンに通用しなかった。
かつて暗殺者であったカノンは元より、気配に敏感であった。
これがクリスとの訓練により洗練され――殺気や気配といった類のものを、直感的に感じ取る能力として開花した。
油断せず、集中していれば、今のカノンには跳弾する銃弾の軌道すらも――射手である女の殺気、意思の描くラインとして見えていた。
後は発射する直前の機微を読み取り、ライン上から身を避けるだけ。
言葉にすれば簡単な事だが……高度な技術により、跳弾による射撃を完全に無効化するカノン。
当たる気配も無いまま、女は弾丸を垂れ流し――カノンは全てを回避して肉薄し、狙撃銃の上から正拳突きを放つ。
「フッ!!」
短く、鋭く息を吐きながらの突きは、スガァッ、と狙撃銃を砕き、そのまま射手の女の腹へ直撃。
ジャグリングの男のように吹き飛ぶことは無かったが、だからこそ衝撃は腹に全て伝わり……内蔵へのダメージから、女は意識を失い、その場に崩れ落ちた。
「きっ、貴様ぁぁあああッ!!」
跳弾に巻き込まれることを恐れ、攻め入るタイミングを失っていた大男が、仲間の惨状に怒りの声を上げる。
巨躯に由来する耐久力に任せて接近し、手足のどこでもいいから掴もうと駆け寄る大男。
だが、タネが分かってしまった以上、カノンにも対策があった。
迫る大男に向かって、なんとカノンも駆け出したのだ。
そして姿勢を低くして、身体の末端を掴まれるよりも先に、男の腰へと組み付く。
「アンタの技、要は鞭みてェに身体を撓らせて、波を作るのが大事なんだろ?
こうして組み合ってりゃあ、それも出来ねェだろうよ!」
言うと――なんとカノンは、力付くで大男を持ち上げる。
「ぬ、ぬぉぉおおッ!?」
「くたばりやがれェえッ!!」
喚く大男と、雄叫びを上げるカノン。
持ち上げた姿勢のまま、カノンは勢いよく海老反りとなって――大男を頭から地面へと叩き付ける。
現代の地球では、プロレスにおける、いわゆるフロントスープレックスに限りなく近い……咄嗟のアドリブで、カノンが編み出した技であった。
見かけに寄らない怪力を発揮するカノンによって、思わぬ形で頭から勢いよく叩き落された大男は、この一撃で完全に意識が落ちていた。
「――ふぅ、あぶねー、あぶねー」
どうにか三人を相手に、勝利して終えられた事に、カノンから安堵の声が上がる。
「まあ、一度油断があったとはいえ、合格点は越えていますわね」
そんなカノンを、クリスは呑気にそう評した。
「てめェ……代わりに戦ってやったアタシに労いの言葉もねェのかよ!!」
「言葉ではなく、結果でお礼いたしますわ。
さあ、そうと決まれば訓練再開です。
カノンさんの今のレベルも分かったことですし、さらに負荷を上げていきますわよ」
「うげェ……」
こうして、暗殺チームによる最初の襲撃は、カノンの手によって失敗に終わるのであった。
しかし一方――この結果を見届けていた、残る暗殺チームが、更に卑劣な手段を取る結果にも繋がってしまう。
☆一口メモ☆
クリスが強すぎるだけで、カノンもモブには絶対負けないぐらいには強い。




