第二十五話 代理戦争
暗殺チームの三人を見て、クリスは頷く。
「ふむ、どうやらちょうどいい相手のようですわね」
「ちょうどいいって、何がだよ」
クリスの発言にカノンがツッコミを入れるが、まさかの答えが返ってくる。
「当然、カノンさんと戦うにちょうどよい、という意味ですわ」
「はぁッ!? なんでアタシが!?」
不満から声を荒げるが、クリスが意見を変える様子は無かった。
「そろそろ、訓練の成果を実戦でも確かめるべき頃合いです。
あれら三人を、同時に相手して勝利なさい」
「……無茶苦茶言うぜ、ったく」
カノンは諦めたようにボヤいて、仕方なし、と前に出た。
「オイ、小娘! 殺されタク無かったら、ソコを退きナァ!!」
ナイフジャグリングの男が、カノン相手に威圧するように言う。
「悪いが師匠の言いつけでね、てめェら畳んでやんねェといけないらしいんだわ」
言って――カノンは臨戦態勢に入り、構える。
かつて暗殺者だったとは思えない、無手の、武器を一切使用しない格闘術による戦闘態勢。
訓練の成果の、初披露の瞬間である。
「構うもんかよ。
こいつを殺して、後ろの女も殺せば任務達成のついでにもう一人殺せる。
おまけ付きの殺人なんて、気分がいいなぁ!!」
大男がユラユラと身体を揺らしながら、カノンと同様無手で構える。
「……任務の邪魔をするなら殺す」
狙撃銃の女も、銃を構え、戦闘態勢を取った。
いよいよ――暗殺チーム三人と、元暗殺者にしてクリスの弟子、カノンの戦いが始まる。
最初に動いたのは、ジャグリングの男。
ナイフをカノンに目掛けて投擲し、これを難なく避けるカノン。
「甘イぜぇ!!」
だが、ただ投げて終わりでは無い。
ナイフは不思議な力により、まるでブーメランのように舞い戻り、背後からカノンを襲う。
だが、これもカノンは容易く回避。
(投げナイフ……だけじゃねェな、アレはナイフの扱いなら何でもござれって感じだ。
ちっとでも隙を見せれば、一撃でバイタルゾーンを貫くぐらいの技量はある)
バイタルゾーン……つまり生命維持に必要不可欠な器官の集中する部位、例えば重要血管の集まる首筋や、心臓や肺を一度に傷つけられる可能性が高い胸部等を、ジャグリングの男は正確に狙うだけの技量があると、カノンは踏んだ。
ナイフはジャグリングの男の手元に戻り、この間に狙撃銃を構えた女が――明後日の方向に銃口を向ける。
(なんだ? あんな方向に撃ったところで意味ねェだろ?
バカじゃねェのかアイツ――)
「――油断しない」
侮るような考えを浮かべたカノンを、直後クリスが背中から足蹴にする。
直後――女が狙撃銃を発砲。
弾丸は近くの家屋の壁へと当たり――何故かそのまま着弾する事無く、光が反射するかのように、まっすぐ弾かれ、カノンの方へと跳弾する。
弾丸は、当に先程までカノンが立っていた場所を……しかも頭部を直撃する軌道を描いていた。
「全く、未熟者が過ぎますわね。
気配を感じなさい、殺気の描く線を見極めるのです。
わたくしが手出しするのは、これっきりですわよ?」
言って、クリスはカノンから離れていく。
カノンはクリスに感謝の言葉を告げる余裕も無く、即座に立ち上がった。
(チッ……魔術か何かで弾道をコントロールするってワケか。
ありゃあ、弾自体も何か強化が入ってるな?)
自身の失態は反省しつつも、冷静に敵戦力を分析する。
だが、この間にも大男がカノンを狙い、距離を詰めて来ていた。
「お前を、殺させてくぅれぇぇえええッ!!」
気色の悪いことを、まるで愛の告白でもするような声色で叫びながら、大男はカノンを狙う。
「あの世で待ってな!!」
言って、カノンは蹴りを放つ。
腰の入った一撃が側頭部に直撃し、このダメージで大男はよろけたのだが、なんとか耐えきると、カノンの足を掴む。
「ヒヒヒハハァッ!!」
笑いながら――カノンの足を、鞭か何かのように撓らせ、下へと振り下ろす。
途端、咄嗟に危険を感じ、もう片方の足で大男を蹴り、掴みから抜け出し、飛び退くカノン。
だが……大男の技は途中まで成功していた。
「くっ、なんだよ……この痛みは?」
脚を鞭のように撓らせ、衝撃を波のように伝達させ――大男は、なんとカノンの首に威力が集中するよう、コントロールしていたのだ。
半端な段階で技が解けた為、ズキリ、と痛みが走る程度で済んでいるものの、もしもカノンが脱出に失敗していた場合、大男の振り下ろす怪力も相まって、首が折れていたに違いなかった。
(打撃でも、投げでもねェ……あえて言うなら、絞め技に近いか?
けど、組む必要もなく、身体のどこを掴んでも極められる絞め技みたいなもんだ。
ちっと、厄介かなこりゃあ)
冷や汗を拭いながら、カノンは大男の技を理解し、警戒する。
凡そ、三人の手札については予想が付いた。
ここからは、カノンによる反撃が始まる。
さ、三対一なんてひどすぎるよ……!




