第二十三話 暗躍
翌日――何事も無かったかのように手配が解除されており、カノンはこれを訝しんだ。
「なあ、クリス。
アンタ、どうやって手配書を取り下げさせたんだよ?」
フッ、フッ、と交互に正拳突きをして型を覚える訓練中のカノンが尋ねる。
「さあ?
わたくしは何もしていませんわよ?」
「嘘つけ、じゃあなんで手配書が一日で取り下げなんかされんだよ?」
「それがわたくしにも不思議で不思議で……」
いけしゃあしゃあとのたまい首を横に振るクリスを、カノンは白い目で見る。
「気味のわりぃ女だぜ、ホント……」
しかし、そうボヤいた後は、型の訓練を真面目にこなすカノンであった。
僅か一日で指名手配を解除されたクリスの噂は、辺境の外にも広まることとなった。
数週間後には、近隣の帝国領であれば「悪徳貴族が出した手配書を力付くで取り下げさせた傑物がいる」という噂を聞くことが出来た。
そして――この噂を、遥か遠方の地で耳にする者もあった。
「……つまり、クリスティーナさんは魔の樹海を越え、帝国へ到達し生き延びていると?」
言ったのは、サリア・カスティーリャ男爵令嬢……そう、クリス追放の黒幕、聖女であった。
彼女は、正式な皇太子殿下の婚約者としての立場から与えられた、王都内にある屋敷の一室で、ある人物からの報告を受けていた。
「はい、向こうの組織の者から上がっている報告を元に考えますと、ほぼ間違いないかと思われます」
そう答えたのは……どの組織に所属しているかも不明な、謎の人物。
闇に紛れる服装、覆面を着用しており、顔立ちも確認出来ず、人物としての特徴は見て取ることが出来ず、国籍、人種も不明。
そのような怪しい身なりの人間が、本来ならば未だ何の実権も持たないはずの、単なる男爵令嬢、そして皇太子殿下の婚約者に過ぎないサリアの下を訪れているのは、異常な事であった。
「……まさか、魔の樹海に入っても生存出来るとは、さすがに想定外ですね」
少々苛ついた様子で呟くサリア。
「どうなさいますか?」
謎の人物に問われ、意を決したように口を開くサリア。
「暗殺チームを招集なさい」
「あ、あの暗殺チームをですか!?」
謎の人物は、驚きのあまり声を荒げる。
「奴らは確かに実力では最高峰ですが……しかし、やり方が派手すぎます!
見せしめならともかく、国内で運用するのは、我々の動きが露見する危険性が!」
「かまいません」
サリアは、謎の人物の発言を遮るように言い切る。
「彼らに王国での仕事はもう殆どありません。
このまま遊ばせておくぐらいなら――悩みの種が発芽する前に処分してしまう方が有意義です」
「ですが……その、クリスティーナというのは、そこまでする必要がある者なのですか?」
問われて、一瞬意外なことを言われたみたいに目を見開いてから、続いて確信でもあるかのように、頷くサリア。
「ええ、間違いなく。
かのクリスティーナ・ブーケンシャー侯爵令嬢だけは……必ず我々の前に、最大の敵として立ちはだかる運命にあります。
何に優先してでも排除せねばならないのです」
そこか虚空を見つめるような、遠い目をしながら言い切ったサリア。
ここまで言われて謎の人物も、理解は出来ないながらも、納得はする。
「了解しました、では、そのように差配させていただきます」
言うと、部屋を後にし、姿を消す謎の人物。
一人残されたサリアは、憎々しげに呟く。
「クリスティーナ・ブーケーンシャー……貴女だけには、運命には、決して屈しませんよ」
こうしてサリアの差配により……『暗殺チーム』なる存在が、クリスの命を狙い、差し向けられることとなった。
あ、暗殺チーム!?
あの暗殺チームがクリスティーナを暗殺に!?




