第二十二話 クリスが襲撃するの
指名手配を受けてなお――クリスは堂々と街を歩き、そしてフセイン・スルーノの住まう屋敷を目指して進んでいた。
クリスを襲撃しようとしていた輩は、食堂に来た者達だけで終わりではなかった。
クリスが街を進む様を、物陰から、路地裏から、建物の中から顔を覗かせる輩の姿があった。
だが――戦いはただの一つも、発生しなかった。
後に、この時の行進を見たものはこう語る。
「クリスちゃんの強さなんて、どえらく強いってことぐらいしか知らなかったけどね。
でも……あん時はよおーく、分かったよ。
悪徳貴族の手配したらしい輩がさあ、こぞって集まって、何をしたかって?
挨拶してやがったさ、クリスちゃんに。
頭下げて、まるでクリスちゃんに傅く部下みたいに、『恐れ多くも追いかけさせていただいております』ってな感じで、慌てて後ろを追っかけてたもんさ。
直前まで、喧嘩を売ろうって魂胆だった輩がだよ?
いざ対面して、ビビって芋引いてんのさ。
クリスちゃんに、貴族様の屋敷までの道を聞かれて、素直に答えて、それで終わりさ。
当のクリスちゃんは、散歩でもするみたいに、屋敷に向かって気軽に歩いてるだけなんだけどね。
ビビった輩がぞろぞろ後ろを付いていくもんだから、クリスちゃんを先頭にした凱旋大行進やら何やらに見えてね。
こりゃあ、格が違うなって、一発で分かったし――貴族様も終わったな、って悟ったもんよ」
クリスが屋敷に到着する頃には、既にスルーノ側も準備を整えていた。
クリスを捕縛するための私兵を雇い、さらには領地の軍備から一部の兵器まで勝手に拝借し、クリス制圧の準備を進めていたのだ。
これら兵器の中には、魔力を利用して作動する、さながら現代地球文明における銃火器にも似た魔道具が含まれている。
これら銃火器の魔道具は、使用者の魔力を弾薬や信管に変え、超音速の金属弾頭を発射する事が出来る代物。
弾頭の速度は毎秒1000メートル超――地球における一般的なライフルの弾速よりも速く、その威力は魔物の強靭な皮膚と体組織を貫き、絶命させるに十分な破壊力を持つ。
そのような魔道具製のライフル銃を、スルーノ側は何十丁と揃えており……これだけの装備があれば、弾丸の続く限り、魔の樹海に生息する魔物すら容易く討伐可能である。
しかし惜しむらくは。
……それだけ準備したところで、まるで足りなかったという点であろう。
「――お邪魔いたしますわ」
屋敷に到着したクリスは、門扉が開くのを待たずして、グシャア、と力付くでこじ開け、中へと侵入する。
敷地内の庭で、クリス捕縛の為の準備を進めていたスルーノと、その私兵達は、突然の出来事に唖然とする。
幸いにも――いや、幸いとなったかは不明だが、ともかく私兵達はよく訓練されており、気を取られていたのは一瞬だけ。
「し……侵入者だァッ!!」
次の瞬間には、それぞれ手近な装備を取り、クリス捕縛の為に動き出した。
真っ先に行動出来たのは、武器では無く盾――現代日本で言えば、ライオットシールドに似た大型の盾を手にした私兵達であった。
彼らは盾を構え、身体を完全に隠し、覗き穴から前を確認しつつ、クリスに向かって突撃、体当たりを敢行する。
このシールドは、魔道具製のライフル銃による射撃であっても、単発であれば破損も貫通もすることなく耐えることが可能な強度がある。
にも、かかわらず。
「――弱い」
クリスは迫りくる盾の軍勢を、手を差し出して抑え込む。
大の男が数人がかりでクリスを押し込もうとするが、むしろクリスは少しずつ前進する始末。
そして……クリスは飽きた、とでも言わんばかりに、ハァ、とため息を吐いてから、ポン、と軽く盾を押した。
これだけの動作で、盾を構えた私兵達は後ろへ押し返され、転倒する。
転倒したところへクリスは近づき、盾の縁を持って――メキメキッ、と音を立てて左右に引き裂く。
拉げ、引き裂かれた金属製の盾を、クリスはこれ見よがしに見せつけ、粗雑に放り捨てる。
そして、障害など存在しなかったかのように、ニコリと笑って前に進む。
「――う、撃てェッ!! 撃つんだ!!」
怯えるスルーノの掛け声に応じて、残る私兵達が一斉に射撃を開始する。
大量に用意された魔道具製のライフル銃だけでなく、機関銃――地球におけるマシンガンや大口径の対物ライフルまで、地球に存在するものと遜色ないどころか、威力で超越する代物による集中砲火を受けるクリス。
それでも尚――クリスの歩みを止めることは出来ない。
まるでそよ風でも吹いているかのように、気分良さげに、一歩、また一歩と前進する。
顔に、腕に、腹に、腿に……どこに命中した弾丸も、クリスの皮膚を貫くことならず、潰れてポロポロと零れ落ちる。
ならば――とでも言うのか、私兵達は手榴弾を投擲し、さらには地球におけるロケットランチャーに相当する火砲を発射する。
優秀な私兵達のお陰で、どれも正確にクリスへと着弾し――爆発。
ドゴォンッ、と爆発音が響き、続けてドドドッ、と炸裂する。
だが、これでもクリスは無傷。
ドン、ドンッ、と順に足元で炸裂する手榴弾が立ち上げる土煙の中から――直撃、炸裂するロケットランチャーの爆炎の中から、クリスは涼しい顔で歩いてくる。
(なんで――これが効かないワケェ?)
私兵達は恐怖を通り越し、何か奇っ怪な造形の芸術品でも目にした時のような、間抜け面で呆然とする。
攻撃の手は止んだ。
「な、何をしている!?
やれ! どんどん撃てッ!!」
保身のためにも、スルーノは必死に私兵達へ攻撃を促す。
とはいえ、最早手遅れ。
クリスはスルーノの眼前に仁王立ちで立ちはだかる。
「――ヒィッ!?」
恐れ慄き、勢い余ってひっくり返るスルーノ。
「貴方が、わたくしを指名手配なさった方ですのね?」
問われ、恐怖から……スルーノは、たとえ違ったとしても頷いていたであろう、というぐらい、反射的に何度も頷いた。
「捕まえてみせなさい」
非難の言葉が跳んでくる、と誰もが思っていたが、クリスは予想を裏切った。
「あらゆる手段を尽くして、わたくしを楽しませてみせなさい。
――まあ、余興はこれぐらいで終わりとしましょうか」
それだけ言い残すと、クリスはスルーノに背を向け、堂々と屋敷の庭を後にするのであった。
「……スルーノ様ッ!!」
護衛の男が、倒れるスルーノを心配して近寄る。
湿った股間と、アンモニア臭には気づかないこととした。
「……やめた」
「はい?」
「指名手配なぞ取り消しだ!
あんな、わけのわからんヤツにはもう二度と関わりたくないっ!!」
と、みっともなく叫ぶスルーノ。
こうして、クリスの指名手配はわずか一日にして撤回されることとなった。
☆Q&A☆
Q.なんで異世界ファンタジーに銃が!?
A.この世界はそういう風に出来ている……。
Q.この感じの銃がある時代と、紙幣が無く貨幣の価値が不安定な時代は一致しないだろ!
A.それはそうなんだけど、この世界はこういう風に出来てるから……。




