第二十一話 スルーノが襲撃するの
夕食時、クリスは弟子として同じ宿に無理やり泊まらせているカノンと、ついでにフロリーナと共に、宿の食堂で夕食を取ることになっていた。
三人が一つのテーブルに集まり、料理が運ばれてきて、いよいよ食事に手をつけようとしたところで――複数のガラの悪い男達が、食堂へ入り込んでくる。
「おうおうおう、クリスっちゅう指名手配された女はどこだァッ!!」
男達の一人が、威圧するような声を上げながらクリス達の方へと近づいてくる。
「さてカノンさん、フロリーナさん、お食事にしましょう」
「……いやいや、絡まれてっぞ、おめェ」
「無視するクリスさんも素敵♥」
男達をまるで空気みたいに無視するクリスに、ついツッコミを入れてしまうカノン、普段通りのフロリーナ。
「テメェがクリスかァ!?
ナメてっとぶっ殺すぞ、アアン!?」
凄む男は、クリスの方へとガンを飛ばす。
だが――このような隙だらけの行為は、クリス相手には自殺行為そのものだった。
クリスは流れるような動作で男の首を掴み――そのまま握力だけで、コキャッ、という音が鳴るまで締め上げた。
男は意識を飛ばされ、クリスが手を離すと同時に、そのままドサリ、と床へ崩れ落ちる。
「てめ、手ぇ出しやがったな!?
周りがどうなっても知らねぇぞ、ゴラァ!!」
残る男達はキレて、食堂に居る周囲の客へと向かってガンを飛ばし、暴行を加えることを示唆する。
だが……これでもまだ、クリスは落ち着いたものであった。
「カノンさん、一つ面白い技をお見せして差し上げますわ」
「――あァ? こんな時に何だよ?」
「これは『合気』と呼ばれる技で、相手と自分の気を合わせることで、力ではなく技で相手を制圧する技術なのですが――。
極めると、ほら、この通り」
言うとクリスは、虚空を掻くような仕草で手を動かす。
すると――触れてもいないのに、離れた場所に立っていた男が一人、抑え込まれたみたいに、ダァンッ、と床へ勢いよく突っ伏す。
「……は?」
「触れずとも、人を制圧することが出来るようになります。
さらにこの技を応用すれば、特別な動作をせずとも日常の仕草の中に技を織り込むことで――このとおり」
言ってクリスは、テーブルに用意された食事のうち、スープを一口、スプーンで掬って頂いた。
すると奇妙なことに、また一人、襲撃に来た男達の中から、ダァンッ、と勢いよく床に突っ伏す者が現れる。
「わざわざ迎撃の動作をする必要も無く、日常を邪魔されることすらなく、お食事の片手間に敵を制圧することすら可能となるのです」
言いながら、クリスは食事を進めていく。
すると次々と、襲撃者の男達は床へ叩き伏せられ、起き上がれなくなっていく。
どうにか立ち上がろうとする者が居ても、また一口、クリスが食事を進めるだけで、強い負荷でも掛かっているかのように制圧され、床に突っ伏す羽目になる。
唖然とする人々――カノンも含む、食堂にいる全ての人の視線にも構わず、クリスは淡々と食事を進め、都度襲撃者を制圧しながら、結局食事の手を止めることすらせずに、片手間で勝利を収めつつ、食事を終えた。
終始、男達はクリスを相手に何も出来ず、逆にクリスは何一つ、行動を制限されることすら無かった。
「さて――では、そろそろ腹ごなしにでも行ってきましょうか」
言って、クリスは席を立つ。
「おいおい、腹ごなしって、どこへ……」
呆れたように問うカノンに、クリスは自然体で応える。
「お腹いっぱい、満足に食事を終えた後に、せっかく暇な時間があるのですから、暇つぶしにでも向かって差し上げますのよ。
指名手配、してくださったお礼に、ね」
クリスは、カノンに教え込むかのように語る。
「いいですか?
行動を縛られない、食べたい時に食べ、寝たい時に寝て、暇つぶしにケジメを付ける。
自由意志を、何人にも阻害されない――圧倒的暴力。
これがあって、初めて本当の意味で何でも出来る、本当の自由が手に入るのです」
言うと、クリスは食事の席から離れていく。
「お二人は、お食事がまだでしょう?
ゆっくりなさって。
じきに終わらせて、戻ってきますから」
言って何処かへと――ほぼ間違いなく、フセイン・スルーノの居場所へと向かって歩き出すクリスを、カノンはただ、見送るしか出来なかった。
☆一口メモ☆
フセイン・スルーノはゴロツキを暴れさせた後、かならず見舞金を送るので、意外とそこまで恨まれていない。




