第十五話 破れかぶれ
その後も――カノンは連日のように、クリスを殺す為の手段を様々講じた。
だが、どれ一つとして有効な結果は得られず、どころか傷一つ与えられない状況が引き続く有り様であった。
最早、暗殺という手段では叶わない。
直接――無理にでも、実力行使で殺す。
つまりクリスと直接『戦う』ことで殺す以外の方法が残っていなかった。
決闘を申し込み――白昼堂々と相手を殺す、あるいはその場で殺すことができずとも、命を賭けさせることで、決闘に勝利さえ出来れば殺せるような状況に持っていく。
これがカノンの考える作戦で、しかし暗殺者として最低と言える内容であった。
だが……手段を選ぶつもりは無いカノンに、引く理由も無い。
冒険者ギルドに顔を出したクリスに近寄り、カノンは声を掛ける。
「――おいクリス、ちょっと面貸してくれや」
これにクリスが笑顔で応える。
「どうなさいましたか、カノンさん?」
「アンタに……決闘を申し込むッ!!」
カノンの言葉で、辺りの冒険者達がざわつく。
「決闘ですか。
賭けるものは何ですの?」
「互いの、命」
問われ、カノンは隠すことも無く宣言する。
「負けた方の命は、勝ったほうが自由にしていい。
殺すのも、奴隷にするのも、何でもだ」
滅茶苦茶な要求であったが、クリスは躊躇わずに頷いた。
「いいでしょう――その決闘、受けて立ちますわ」
こうして――外野にしてみれば脈絡も、意図も不明な、命懸けの決闘が成立するのであった。
決闘の場所として、カノンはギルド前の通りを選んだ。
より開けた場所の方が――有利に働く為だ。
これをクリスも受け入れ、通りの往来を制限する形で、決闘が開始される。
この奇妙な決闘の見届人として巻き込まれた、可哀想なギルマスが、ため息を吐きながら最終確認をする。
「――お互いの命を、生殺与奪の権利を賭けての決闘。
命を掛けるのだがら、殺しもアリ。
本当に、ルールはこれでいいんだな?」
「相違ありませんわ」
「問題ねェよ」
何故か躊躇う様子も見せない二人に、理解できない、と言わんばかりに首を横に振って、ため息を吐くギルマス。
「……じゃあ、結果はオレが見届けてやるから、後は好きにしやがれ。
――始めッ!!」
ギルマスの宣言により、決闘が開始する。
カノンはまず、クリスから飛び退くようにして距離を取った。
近接での殴り合いは、クリスの圧倒的有利、というのはカノンにも理解できている事実。
故に距離を取ったのだが、クリスは追いかけてこない。
「……どういうつもりだ?」
カノンが問うと、クリスは笑う。
「狩りをするんじゃあありませんのよ?
逃げる獲物を追うわけでもないのに、慌てる必要がどこにあるんです?」
それは、カノンなど取るに足らない、自身の危機足り得ない、敵にもならない相手だと宣言するにも等しかった。
カノンはナイフを抜き――挑発するように、その刀身を舐めてから言う。
「その減らず口、叩けねぇようにしてやるぜ……ッ!」
刀身を舐めたのには――そこに毒が無い、と周囲に思わせる思惑もあった。
しかし取り出したナイフは柄に仕込みがあり、突き刺すような衝撃を与えると毒が刃に流れ出るように作られている。
このナイフを構え、カノンはクリスに向かって突撃する。
最早隠す気も無い、最大限の身体強化を発動して駆け抜ける。
これを、クリスは腕組みをして、まるで迎え撃つ気が伺えない姿勢のまま、待ち受ける。
カノンのナイフがクリスの首筋を狙い、突き出されるが……効果は無いどころか、回避する素振りすら見せず、そのまま刃を首の皮膚で受けてみせた。
クリスにしてみれば当然で、王国の近衛騎士の剣ですら、この皮膚を貫くことは出来なかったのだから、特別強度や切れ味に優れているわけでもない、単なる仕込みナイフで傷が付く道理も無かった。
ギリギリ、と力を込め、どうにかナイフを押し込んで突き刺そうとするカノンに、クリスは言い放つ。
「こんなもの、おもちゃにもなりませんわね」
言ってから、ナイフを指で摘み、パキンッ、とへし折った。
武器を壊され、カノンは咄嗟に後退するが……眼の前で、信じられないものを見た。
「ふむ……こんな感じですか?」
言いながら、なんとクリスはへし折ったナイフの刃を捏ねるようにして、丸め、拉げて小さい球体状に纏めてしまう。
そして……小さな金属片となった、毒が表面に滲んでいるはずのナイフを、何故か口へと放り込んだ!
「――ッ!?」
「何をッ!?」
カノンだけでなく、決闘を見届けるギルマスまでも驚き、唖然とする。
クリスはクニュ、クニュ、と金属を噛んで、口の中で変形させ、満足したところで、ペッ、と吐き出す。
地面に落ちた、ナイフだったはずの金属片は……噛んだ後のガムのように変形してしまっていた。
「お分かり?
武器にもおもちゃにもならないなら、こんなもの――吐き捨てられたガムぐらいの価値しかありませんわよ」
見ての通り、と言わんばかりに、クリスは吐き捨てた金属片を指し示した。
だが実際……言葉通り、カノンの持つ武器では、クリスにダメージを与えられない。
それこそ――噛み終わったガムで人を害そうとするぐらい、無謀な戦力差があった。
「ふッ……! ふざけやがってェッ!!」
カノンは次の手段に出るため、クリスへと再び突撃する。
暗殺者が正面から堂々と決闘を挑む……うん、普通だな!
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