第十四話 必殺の仕事
経口摂取でダメなら――血液への混入ならどうだろうか?
次にカノンが考えたのは、毒矢による暗殺である。
矢とは言っても、いわゆる弓矢を使うわけではない。
吹き矢、あるいはブロウガンと呼ばれる、針を飛ばす武器を使い、クリスの暗殺を狙う。
冒険者は――優秀な者ほど、大量の魔力を持っている。
その魔力を消費し、身体能力を強化して活動するのが一般的な冒険者である。
カノンも例に漏れず、身体能力を強化する技術は習得しており、斥候として活動する時は低出力でしか発揮していないが、実力行使の必要な暗殺時には最大限の効果を発揮させる。
吹き矢による暗殺時も同様で――冒険者としては類を見ないほど膨大な魔力量を持つカノンの、身体強化を使って発射される針は、距離にして百メートル以上離れた場所からの狙撃を可能とする。
カノンは外出時のクリスを狙い、とある家屋の屋根上に待機していた。
吹き矢を放つため――片足だけで長座をするような姿勢で、前屈するかのように背を丸め、低く構える。
遠く百メートル以上先の商店街を歩くクリスを狙い、毒を仕込んだ針を吹き矢に仕込む。
「……露出だらけの、変態みてェな格好しやがって、バカなヤツだぜ。
後悔しながら、死んでいきな」
悪態を吐き――針を吹いた。
カノンの発射した針は、音速に近いスピードでクリスへと迫り、ビキニアーマー程度の防護面積では一切隠されることの無い首筋に――刺さる直前になって、なんと回避される。
さらには――クリスはなんと、眼前を通り過ぎようとする針を空中で、指二本で掴み、止めてみせた。
「なっ……!? 嘘だろ!?」
驚愕するカノンだが、クリスの行動はこれで終わらない。
気配遮断を漏れなく発動しているはずのカノンを、なんと百メートルを超える距離があって尚、正確に捉え、視線を向ける。
そして……恐るべきことに、針をカノンの方へと投げ返したのだ!
針はカノンの発射した以上の速度で飛来し――吹き矢のシャフト部分にツカンッ、と突き刺さった。
「ふッ……ふざけやがって……ッ!!」
怒りで頭に血が上るカノン。
だが、暗殺失敗には変わらない。
この場に留まる理由も無く……カノンは静かに、屋根上から離れ、次の作戦を考えるのであった。
次にカノンが選んだ作戦は、爆殺であった。
火薬を使い、単に人間では出力し得ない威力のダメージをクリスに与えよう、という計画である。
無論、爆発だけでクリスを仕留められるとは考えていないのだが……わずかでも負傷するのならば、そこから毒物を血中に流し込む隙だって生まれるはず。
つまりは、通常の手段では暗殺に至らない為、まずは暗殺可能な状況を作るための一手として、爆発物を選んだのである。
当然、かといって威力に遠慮は無い。
魔の樹海に由来する、火属性の素材を利用して調合された、通常の火薬より遥かに少量で強力な爆発力を発揮する火薬を使用する。
周囲に被害が及ばぬよう、高い指向性をもたせた爆弾を作り上げ、いよいよ実用の時。
人混みの中を歩くクリスに、気配遮断を使いながら近づき――導火線に火を付け、クリスの顔面だけを吹き飛ばす位置に爆弾を投射。
これならばあるいは、と結果を見守るカノン。
だが……クリス相手には無駄であった。
導火線に火を付ける前から既に、火薬の匂いを感じ取っていたクリス。
眼の前に投げ出された爆弾を見て――瞬間的に手を差し出し、握りしめる。
丁度、爆発の指向性が掌に向く形で。
――ドンッ、と爆弾が炸裂する音が響く。
だがその衝撃は……周囲に広がることも、クリスの掌を貫通することも無く、その手の中で握り潰されたかのように、無効化される。
周囲の人々が音に気づき、何事だ、と騒ぎ始める。
だがクリスは何事も無かったかのように……爆発し役割を終えた物体を掌から解放し、その場にコトン、と落とす。
ここでようやくカノンは、クリスの掌の状態を目にすることが出来たのだが――まさかの無傷。
熱も、爆発の衝撃も、高い指向性を持ってしても、クリスに傷一つ付けることすら出来なかった。
「……嘘だろ」
これだけやって尚、ダメージを与えることすら出来ないクリスの身体強度に、唖然とする他無いカノンであった。
☆余談メモ☆
スポーツとしての吹き矢もあるらしい。楽しそう。




