第二話 明日のために!
強くなるにも、身一つでは限界がある。
クリスティーナは、まず必要なものを両親に要求することに決めた。
「おかあさま、おかあさま!」
「あら。どうしたのです、クリス?」
「わたくし、欲しいものが出来ましたの!」
いつものワガママね、と、母は疑うことも無かった。
「いいわ。何がほしいのかしら?」
「宝石が欲しいのです。
それも部屋いっぱいに、キラキラの宝石を広げて、まだ足りないぐらいの!」
宝石ともなれば、随分な額になるし、数を集めるにも苦労する。
「そんなに沢山の宝石が?」
母は流石に面食らい、クリスティーナに聞き返してしまう。
「それほど価値の高い宝石でなくても良いのです。
キラキラしていて、とにかく沢山のものを部屋いっぱいに広げて、楽しみたいのです!」
娘の言葉に、母も思案する。
価値を問わないのであれば、用意出来るだろうが、しかし何故、そんなものを?
元々、クリスティーナは宝石を愛でる趣味はあったものの、それは価値が高く美しい宝飾品としての宝石であり、石のまま、身につけるでもなくただ飾って眺めるというのはらしくない。
だが、そんな疑問も次のクリスティーナの言葉で吹き飛んでしまう。
「こんなわたくしのワガママで、おかあさまに苦労をおかけするのは申し訳ないのですけど、それでも今はどうしても欲しいのです!」
「まあ、クリス!」
遠慮をするようなクリスの言葉に、母は声を上げ、抱きしめた。
「貴女はそんなことを考えなくて良いの。
いくらワガママを言っても良いのよ。
我慢をさせちゃってごめんなさいね」
「いえ、おかあさま。それほどでも」
「いいえ、愛しているわクリス」
柔らかい金髪の上から頭を撫で、何度も愛しているとクリスに伝えた後、母は宝石を集めることを約束してくれた。
こうして数日後、大量の宝石がクリスティーナの部屋へと届けられたのだが。
「これを、えいや! ですわ」
クリスティーナは早速、宝石を――足元の絨毯の上へと一斉にばら撒いた!
当然、周囲には色とりどりの宝石が散乱し、足の踏み場も無くなってしまう。
「まずは、この上を歩けるようになるところからですわね!」
言って――クリスティーナはなんと、宝石が散乱する絨毯の上へと足を踏み出したのだ。
実は、これにはクリスティーナなりに深い考えがあってのことであった。
古来、武道において立つという動作は基本中の基本でありながら奥義と言っても良いほど奥が深く、幅広く応用の効く技術であった。
人は誰でも、ただ立つだけならなんてことの無い動作だと思い込んでいるが、その実、武術的に意味のある立ち、つまり強い立ちを成立させるのは熟練者でも鍛錬が必要な領域であるのだ。
故にクリスティーナはまず自身の『立ち』を鍛えることから始めることに決めたのだが、その方法に問題があった。
あらゆる鍛錬が、目立つし疲れるのである。
目立つ訓練や疲れが露骨に見える訓練は、両親や使用人に止められるだろうし、隠れてこそこそと続ける鍛錬には限度がある。
合間合間で細かな鍛錬を積むことが出来たとしても、根本的な量の不足を解決することは出来ない。
であるからには、鍛錬を自室内で完結できるもので、しかも体力的な消耗が少ない方法が求められてくる。
そこでクリスティーナが思い出したのが、山歩きという訓練であった。
これは読んで字の通り、山を歩くという単純な鍛錬法であるのだが、ただ一点、現代人が使うような丈夫な靴を使わず、裸足、ないし最低限の怪我を防ぐ程度の足袋だけを履いて歩くという特徴がある。
最初は歩きやすい山道から始まり、少しずつ過酷な山道へ移り、最終的には不安定な足場で岩から岩へと飛び移るようなレベルにまで到達する。
この鍛錬を経ることで、人は足裏の感覚が鍛えられ、最適な体重の掛け方や平衡感覚を養い、最終的には立ちや歩きといった基本的な姿勢、動作の練度を高めることが出来る。
クリスティーナは、実際に山へ行くことは出来ないものの、これに近い鍛錬が自室で出来るのでは、と考えたのだ。
毛足の長い絨毯を敷かれた自室にバラ撒かれた宝石は、目視で状態が見づらい。
体重を掛けても崩れることなく、足裏に突き刺さってくるのか、それとも転がることでクリスティーナの姿勢を崩されるのか。
判断が難しい状態で歩き回ることで、山歩きと同様の効果を得ようと考えたのだ。
「痛っ!」
当然、ひ弱でふやふやなクリスティーナの足裏では、宝石を踏みつける痛みに耐えきれるはずが無いし、体幹でバランスを取って痛みを軽減するような技術も無い。
あんまりにもな痛みで涙目になりながらも、クリスティーナは宝石の上を歩く。
全てはひ弱な自分を克服し、両親の愛情へと応えるために!
そんな親思いの優しいクリスティーナに……身体も応える。
クリスティーナ流、健康足つぼマット!
立ち云々、武術うんぬんの話はy◯utube shortぐらいの信憑性、信頼性だと思ってお読み下さい。




