第九話 『お話』
早朝に発って昼前には村に到着し、冒険者はそれぞれ騎士の指示通り、村の人々に避難指示を出す為に散っていく。
そして騎士本人と、クリス、カノンを含む数名の若く威圧感の少ない冒険者が、村長――つまり村の代表、有力者と直接会い、より詳細な避難計画について説明をしに向かう。
だが――ここでトラブルが発生する。
「ワシらは避難なんぞせん!
村が滅びるなら、ワシらも村と共に滅びる!」
なんと村長が――そして村長と近い年代の年寄り連中が、避難指示を拒否しだしたのである。
「困ります!
貴方たちが村に残るとして、それを他の村人全員が納得できるとは思えない!
混乱を招き、避難に支障が出る恐れがあります。
大人しく、我々の指示に従って下さい!!」
騎士はどうにか村長に避難を受け入れて貰おうと説得をするが、しかし聞き入れてはもらえない。
「アンタら余所者には分からんだろうがね、この村はワシらが若い頃に命がけで開拓した大事な村なんじゃ。
逃げたいもんは逃げればええ、しかしワシらには、村を捨てるなんて、命を捨てるようなもんじゃ!」
村長と騎士の話し合いは平行線となり、決着がつく気配も無かった。
これを見て――クリスが前に歩み出て、騎士の肩をポン、と叩く。
「騎士さん、ここはわたくしにお任せくださいな」
「うん? まあ、そう言うなら」
妙に自信有りげなクリスの表情を見て、騎士もこのままでは埒が明かないと思い、一度任せてみる気となった。
クリスは村長のすぐ目の前まで近寄ると、まず尋ねる。
「避難、してくださいませんか?」
「ふん、不埒な鎧を着た女で籠絡するつもりか、ワシらはそんなもんに流されはせんぞ――」
バギャ、と。
村長が言ったところで――発言を否定するかのように、クリスの拳が顔面へと叩き込まれた。
「は、な、なにを」
「避難してくださいますね?」
「い、いやワシらは――」
バギャッ、と二発目。
クリスは村長相手に、老人相手に暴力を振るい、拒否の言葉を言い切らせない。
「な、何をしとるんだぁ!!」
騎士との交渉に同席していた、他の村人達がクリスの暴挙に声を上げる。
だが、クリスは一切構わず、村長との『話し合い』を続ける。
「避難してくださいます?」
「い、いやじゃ――」
三度、打撃。
今度は村長の鳩尾を突き、その衝撃で胃の中のものを口から吐き出し、えずく村長。
「な、なんでそこまでする必要があるんじゃ!」
村人の一人が、クリスに文句を投げかける。
「何故、と?
逆に、何が問題なのです?
貴方がたは、ここで死ぬのが望みでしょう?
――ここでわたくしと死ぬほど『お話』することに何の否やがあるのです?」
言うと……クリスはえずく村長の頭を叩いて自分に意識を向け直す。
「さあもう一度――避難をしてくださいますね?」
「わ、ワシは……」
「――うわぁぁぁああっ!!」
村長に対する拷問が再開しようとしたところで、村人の一人……この場に農具を、鍬を持ち込んでいた男が、クリスの背後から襲い掛かる。
だが、クリスは振り返ることもせずに片手で鍬を握って受け止め、そのまま力を上手く受け流し、鍬を通じて相手の男の体勢を崩して転倒させる。
そして転倒させた男の顔面――の、すぐ横にストンピング。
ドギャァッ、と一撃で床板が粉砕され、突き抜けるのを、襲撃者の男は文字通り眼前で見せつけられる。
「不意打ちなら、いつでもどうぞ?」
クリスは笑顔を浮かべ、村人達を見回しながら言ってやった後には、何事も無かったかのように村長に向き直った。
力の差を見せつけられた村人達は、抵抗する気力を失い、項垂れるしかなかった。
そしてクリスは、返事の無い村長に向けて拳を振り上げた。
「――ヤメてくれぇッ!!
わかった、避難するッ!!
アンタの言う通りにするから、もう勘弁してくれぇ!!」
クリスに怯えきった村長は、殴られたくないあまりにバタバタと見苦しく手足を動かし、どうにか逃げようと藻掻きながら、考えを改めた。
だが――クリスの拳は止まらない。
バギャッ、と村長の顔面に叩きつけられる。
「にゃ、にゃんでぇ……?」
これに、冷たい視線を向けながらクリスは答える。
「下らない反抗心を企てたお前達の言葉に一切の信用は無い。
必要なのはわたくしの納得だけです。
確かに避難を受け入れ、抵抗する気力の一片も無くなったとわたくしが判断出来るまで、よぉ~く『お話』させていただきますわ」
言うと、クリスは再び笑みを浮かべて繰り返す。
「では――避難、してくださいますね?」
その後、十数回は同様のやり取りを繰り返し――居残りを選択した村人達の心は、完全に折れた。
ボロボロになった村長の姿を見て、もう止めてくれ、と村人たちが懇願し、クリスに縋り付いてようやく『お話』は終わった。
こうして無事……と評価して良いかには疑問が残るが、ともかく死者は無く、村人全員が避難に同意することとなった。
☆一口メモ☆
これはクリスティーナ式交渉術……ではなく、ブーケンシャー式交渉術です。




