第八話 出発と一悶着
避難指示を出す以上は、実際に村の人間を乗せ、辺境まで帰ってくる必要がある。
当然、徒歩では効率が悪い為、公的支援として複数台の馬車がギルドから貸し出される。
その馬車が立ち並ぶ、辺境都市入場門前にて、クリス含む冒険者達は集合していた。
「――冒険者諸君、協力感謝する!
今回の依頼は、領地の安定、平和の為にも極めて重要なものである!
よって、これから行う指示詳細を、決して聞き漏らさぬように!」
今回の依頼を取りまとめる、おそらくは領地を守る騎士の中でも地位の高いであろう人物が、声を張り上げて説明を開始する。
これを聞きながら、クリスは周囲をよく観察する。
(――思ったより人数が多い。
ここの領主は、随分と大盤振る舞いしたようですわね)
等と考えながら見回していると、ある人物に目が向く。
(あら、珍しい。
小柄な女性の冒険者なんて)
クリスの視線が向いたのは――そう、斥候の冒険者カノンであった。
そしてカノンは、ちょうど複数の冒険者から絡まれ、面倒そうにしているところであった。
これに気づいたクリスは、様子を伺う為にそっと近づく。
「オイオイオイ、チビが過ぎる上に女だァ?
いくらなんでも力不足だろ、諦めなって」
「そうそう、最悪スタンピードで溢れた魔物とも戦わなきゃなんねぇんだぞ?
ちっと探索して終わりってわけじゃねぇんだ、他人に迷惑掛ける前に大人しく身を引けや」
複数の冒険者の男に囲まれ、面倒なことを言われ、あまつさえ依頼の詳細を語る騎士の声すら聞き取りづらい事態に、カノンの苛立ちは頂点に達しようとしていた。
だが――爆発寸前で、乱入者が現れる。
「やかましい、静かになさいな」
「――ウギャッ!?」
言って――男達の一人を足蹴にしたのは、クリスであった。
腰に強烈な打撃を食らった男は、その衝撃によるダメージで崩れ落ち、一時的に立ち上がれなくなる。
「な、なんだテメ――ボハッ!!」
喋ろうとした男の顔面を叩き、一撃で意識を奪って黙らせるクリス。
意識を失い、崩れ落ちる男を見て、他の男達は途端に怯えてクリスを警戒し、動かなくなる。
「やかましい、と言っているでしょう?
まだ喋るようなら、全員黙っていただきますわよ?」
言われた男達は互いに顔を見合わせた後、ゆっくり、しかし一斉に、クリスから離れるようにして無言のまま後ずさっていく。
「……悪いな、助かった」
「いえいえ」
それだけの言葉を交わして、クリスとカノンは引き続き騎士の指示に耳を傾ける。
これが、クリスとカノンの初邂逅であった。
騎士による依頼の詳細説明が終わった後、クリスとカノンは同じ馬車に乗り込み、いよいよ村へと出発することとなる。
「――さっきは助かった。
アタシはカノン、斥候メインで活動してる冒険者だ」
「わたくしはクリスと申します。
冒険者には、先日登録したばかりの新参者ですが、よろしくお願い致しますわ」
二人は自己紹介をした後、依頼についての話をする。
「なあクリスさん、アンタはどうしてこの依頼を選んだんだ?
村人の避難と護衛なんて、男だらけで体力仕事も多くなるに決まってる。
アタシらみたいな女が参加することねェだろ?」
問われて、クリスは少し考えた後に答える。
「そうですわね……お金が欲しいというのもありますけれど、どうせなら人を助けてあげるような仕事の方が気分が良い、というのもありますわね」
クリスの言葉に、安心したような笑みを浮かべて頷くカノン。
「だよな、やっぱ人間、持ちつ持たれつってヤツさ。
こういう時、困ってる『村』があるなら、助けてやるのが道理ってもんだろ?」
言われて、少し言葉に違和感を覚えたクリスは、一部を言い直すようにして答える。
「そうですわね、困っている『村人』の皆さんを早く助けてあげませんと」
こうして二人は、何でもない会話を交わしながら、馬車に揺られて目的地へと向かってゆく。
この時の僅かなすれ違いが、実は大きく深刻なものであったとも知らずに――。
☆一口メモ☆
カノンの綴りはKanon。CanonでもCannonでもない。
余談ですが、キャノンボール・アダレイがカノンを演奏したらカノンカノンってことになるんじゃないですか?(世紀の大発見)




