第七話 初仕事
ビキニアーマー完成後、下に着るインナーを買い揃えたクリスは、ついにこれを装備して、冒険者ギルドへと訪れた。
「――あ、クリスさん♥ こっちですこっち!」
待っていました、と言わんばかりに、受付嬢のフロリーナがクリスの姿を見つけた途端に手招きする。
そのままクリスがフロリーナの方へ近寄ると、思わぬことを告げられる。
「ギルドマスターからの通達です。
クリスさんはとっても強いので、特別待遇です。
他の冒険者とは違い、私が専属で対応することになります♥」
嬉しそうに、決まったことを告げるフロリーナ。
妙に対応が早いこともあり、クリスは訝しんだ。
「……貴女、どういうつもりですの?」
クリスが問うと、フロリーナはうっとりとした表情で答える。
「私、こうしてクリスさんのお世話をするのが夢だったんです♪
これからは、手取り足取り、私が何でもやって差し上げますからね!」
「……はぁ、まあ、好きになさい。
で、通達というのはそれだけかしら?」
「はい!
あ、クリスさんの新しい防具、素敵なビキニアーマーですね♥」
「いいから、今日は仕事をしに来ましたの。
対応してくださる?」
「はい!
仕事と言いますと、依頼を受けにきたんですよね?
どういう依頼がご希望ですか?」
フロリーナに言われ、クリスは少しだけ考え込み、専属受付嬢であれば少し踏み入った事情を話そうと判断する。
「わたくし、まずはこの国で身を立てて、ちゃんとした身分のある人間になりたいと思っていますの。
それには沢山のお金を稼いで、この辺境の人間としての正式な身分を得る必要がありますわ」
「なるほど、寄付金を通じて名誉貴族として爵位を授かるつもりですね?」
「早い話、そういうことですわね。
で、爵位を貰って帝国出身の冒険者として、つまり王国の人間ではない誰かとして、合法的に王国へ入国したいと考えていますの。
ですが、地道に小さな依頼をこなしていては、時間が足りないでしょう?」
「ええ、分かります、分かりますよクリスさん」
「ですので、とにかく高額の報酬が貰える依頼を受けたいですわね。
特に、できれば戦う必要の無い依頼が望ましいですわ。
わたくし、あんまり戦いたくありませんもの」
「そうですよねぇ、クリスさんはお優しい人でもありますし、そう言うと思っていました!
そこで、ご用意させて頂いた依頼がこちらです♪」
ドンッ、とカウンターの上に依頼票を置くフロリーナ。
「こちら、スタンピードの予兆があるダンジョン付近の村で避難指示を出し、避難の道中護衛をしてもらうという内容の依頼です」
――『ダンジョン』というのは、魔物の湧き出る異常な土地を指す。
例えば魔の樹海は危険地帯ではあるが、無から魔物が湧き出るわけではない為、ダンジョンでは無い。
一方で、管理されることの無くなった古い時代の地下墓地等は、骸骨の魔物等が自然発生することがあり、ダンジョンとして扱われる。
原理こそ解明されていないものの、そういった不思議現象によって魔物が湧き出る場所全般を『ダンジョン』と呼ぶのだ。
今回、フロリーナが提案した依頼にあるダンジョンとは、辺境都市近辺にある森の一部のことで、ここでは無から獣型の魔物が湧き出てくる。
そして、この湧き出た魔物が狩りきれずに溢れ出て、周辺に被害を齎すのが『スタンピード』である。
「緊急の依頼で、領の公的な依頼でもあるので、報酬は高く設定され確実に支払われます。
オススメなんですけど、どうでしょうか?」
フロリーナの提案に、クリスは顔を顰める。
「妙に話が早いのが気になりますが……まあいいでしょう。
その依頼、受けさせていただきますわ」
「依頼受注、ありがとうございます♥
村へはギルドから馬車を出しますので、出発は明日になります。
遅れないように気をつけて下さいね?」
こうして、クリスは冒険者としての初仕事が決まったのである。
その後――クリスが件の依頼を受け、宿へ帰った後、一人の冒険者がフロリーナの下へと現れた。
「フロリーナさん、なんか良い依頼は無いかな?」
その冒険者は――アッシュブラウンの髪を邪魔にならない程度まで短く無造作に刈り揃えた、身長は百五十センチ弱の、冒険者としては小柄な女性であった。
しかし冒険者歴は長いのか、身につける装備はどれも使い込んだ痕跡が見て取れるし、冒険者ギルドに居て浮つくような気配も無く、自然体を維持していた。
一方で、その目付きは鋭く、常に何かを警戒しているかのような、あるいは何かと敵対しているかのような雰囲気も漂っていた。
「ようこそ、カノンさん。
依頼であれば、ちょうど良いものがありますよ」
フロリーナはその冒険者の女性――カノンに、クリスと同じ依頼票を取り出して見せる。
「スタンピードの兆候があるダンジョン近くの村への避難指示と、避難中の護衛依頼です。
カノンさんは、この依頼を受けた方が良いかと思いますよ?」
フロリーナの妙な言い回しが気になりながらも、カノンは特に疑うことも無く、依頼を受けることにした。
「その依頼、受けるよ」
「では手続きの方を――」
「――ちっと待てやァ!」
そこに、声を上げて割り入ってくる冒険者の男が居た。
「おうおうカノン、てめぇ本職は斥候だろうが?
避難指示も護衛も、てめぇみたいな見た目の弱そうな冒険者じゃあ務まらねぇ、枠の無駄だ。
代わりに俺がその依頼、受けてやるよ」
男は言うと、カノンを退けようと肩に手を掛けた。
だが――次の瞬間、カノンが素早く動く。
男の手を片手で抑え、関節を極めて体勢を崩しつつ、同時に何処からともなくナイフを抜き、男の首に添わせるようにして当てる。
小柄なカノンと比べて、二十センチは差がありそうな男だったが、一瞬で制圧され、床に組み伏せられた状態で、ナイフまで突きつけられる。
「――アタシが弱そうだって?
ハッ、バカ言って笑わせんなよ。
てめェみたいな弱っちいヤツこそお呼びじゃねェんだよ」
言って、カノンはナイフを上に放り投げつつ、男を解放する。
「カノンてめ……ヒィッ!?」
制圧された男は立ち上がりながら、再びカノンに絡もうとするも――寸前でカノンの放り投げたナイフが落下し、男の頬に傷を付け、さらには服の肩口を切り裂き、床に突き刺さる。
「刃物が怖くっちゃあ、冒険者なんて辞めといたほうがいいぜ?」
カノンに煽られ怒りが湧き上がるも、容易く制圧された上、予め投げておいたナイフ一本ですら対処できないようでは、歯向かって勝てるはずもない。
男は怒りを飲み込み、カノンに背を向けて離れてゆく。
「――では、この依頼の最後の一枠、カノンさんで登録いたしますね」
「ああ、よろしくフロリーナさん」
こうして……クリスの選んだ初仕事には、カノンという名の冒険者も参加することとなった。
ギルドで絡んでくる冒険者を返り討ちにする実績を解除した!?
こいつ……まさか主人公か?




