第五話 防具作り開始
ようやく鑑定作業が終わったところで、ギルマスがクリスへと告げる。
「一旦、現金で金貨十枚相当分だけ払う。
残りは手形にして、明日渡そう。
用意できるまでしばらく時間は掛かるだろうが、これだけの素材なら確実に売れる。
取りっぱぐれることは無いだろうから安心しな」
「ええ、気長にお待ちしておきますわ」
クリスはギルマスから直接、革袋に入れられた金貨九枚と、両替した銀貨が大型、小型合わせて百枚近くが渡される。
「で、その感じだと宿もいるだろう?
それだけ金があるなら、ほどほどの宿をギルドで紹介してやるから、そこに泊まるといい。
防具を作るなら鍛冶屋とも繋ぎが必要だろうが、そっちもギルドが紹介できるぞ?」
ギルマスの提案に、クリスは首を横に振った。
「宿はご紹介いただけると助かりますが、鍛冶屋の方は不要ですわ。
少々、真っ当ではない形の防具を作りますので」
「そうか、なら良いんだが……」
ギルマスは、クリスの発言に妙な胸騒ぎを覚えつつも、それ以上言及することは無かった。
ギルドでの用件を追え、紹介された宿に向かったクリスは、幸いな事に貴重品を預けられる金庫のある宿屋であった為、金貨と銀貨の大半に魔物の素材も預けた後、目的の鍛冶屋を探すため外出する。
クリスが向かうのは……鍛冶屋のような職人業が並ぶ地帯では無く、貧民街であった。
獣革に身を包んだ美女の登場に、貧民街に屯する荒くれ者達が色めき立つ。
「おうおう、ネーチャン! どういう――」
絡みに言った若者の、最初の言葉は最後まで続かなかった。
クリスが一瞬にして、拳を彼の顔面へと叩き込み、意識を奪ったためだ。
若者は途端に崩れ落ちるが……その途中でクリスによって髪を捕まれ、気付けとばかりに追撃の膝蹴りが顔面へと叩き込まれる。
この一撃によって若者は意識を取り返す。
「……はへ、あえ?」
「鍛冶屋を探していますの、案内なさい」
意識を取り戻したばかりの若者に、クリスは言って、彼を放り捨てる。
何をされたか分からないのは若者ただ一人で、周囲の荒くれ者達は状況を理解していた。
喧嘩を売られたのだ。
「――テメエ、ぶっ殺してやるッ!!」
誰が叫んだか、その声を皮切りに、荒くれ者達は一斉にクリスティーナへと襲い掛かった。
――貧民街で、密かに営業する潜りの鍛冶屋があった。
表沙汰に出来ない、非合法な素材を使った仕事もするし、非合法な品物自体も作る。
言わば闇鍛冶屋とでも言うべきその男の店に、騒ぎが近づいていた。
店主の男は荒事にも慣れており、多少のやんちゃに巻き込まれるぐらいでは動じない余裕があったが……今日はそうもいかない事態が起こった。
店の外が随分騒がしく、少しずつ店に近づいて来たと思ったら、不意に静かになる。
そして――店主が外の様子を伺おうと立ち上がったところで、来客があった。
「ここが、この辺りで唯一の鍛冶屋ですのね」
現れたのは……獣革に身を包んだ美女であったが、しかし異様な事に、伸びた男二人を、それぞれ片手で無造作に掴んで引きずりながらの入店であった。
「……なんの用だい」
店主は緊張しながらも、なんとか平静を装って言葉を紡ぎ出した。
「防具を作りたいんですの。
有無を言わせるつもりはありません、作りなさい」
傲慢にも思える美女の要求は……しかし、暴力が何より強く支配的に働く貧民街において、最も合理的で、ある意味では礼儀を弁えた発言だった。
「掴んでる、そいつらはどうしたんだ?」
「ああ、コレらは貴方を紹介してくださった親切な方々ですわ」
言うと、美女は用無しのゴミでも捨てるかのように――二人の男を店の外へと放り投げる。
「――で、仕事は受けますの? 受けませんの?」
「……受けるさ、報酬さえ十分ならな」
「それは良かったですわ。
では、素材を持ってきますから、少しお待ちなさいな」
言うと、美女は身を翻して店から出ていく。
そうしてようやく……店主は深く息を吐き、気を抜くことが出来た。
「とんでもない厄日だ……」
☆一口メモ☆
ギルマスは皆からギルマス、ギルドマスターと呼ばれているので誰も本名を知らない。
たま~に現場に来る程度の上役の名前を現場の人間が誰も知らないから役職名(部長等)で呼ぶみたいな感じ。




