第三話 冒険者ギルドにて
クリスティーナは冒険者ギルドへと到着した。
大きなスイングドア――獲物を抱えた冒険者がそのまま通れるように工夫された出入り口を通り、ギルドの施設内へと入る。
中は酒場が併設されている様子で、日中にも関わらず複数の冒険者がたむろっており、獲物を抱えたクリスティーナに視線が集まった。
これを気にも止めず、クリスティーナは受付カウンターらしい場所へと一直線に向かう。
「ようこそ、冒険者ギルドへ! 美人で野生的なお姉さんは、お仕事のご依頼ですか?」
「……そう見えるかしら?
残念ですが、冒険者になりに来ましたの。
それと、素材の売却ですわね」
ニコニコ笑顔で応対する、銀髪をさらりと長く伸ばした受付嬢に、クリスティーナは面倒そうな表情を浮かべた。
「なるほど、では、御要件はこの私、受付のフロリーナが承りますね♥
まずは、冒険者証の発行からですので、こちらの書類にお名前など、必要な情報を書き込みます。
文字はご自身でお書きになりますか?」
「ええ、ペンをちょうだいな」
クリスティーナが書類を記入しようとしたところで――乱入者が現れる。
「――ちょっと待ちな、お嬢ちゃん」
それは、ギルド内の酒場で飲んだくれていた冒険者の男であった。
「そんだけの魔物を担いで来たんだ、実力を疑うつもりはねぇ。
だが……冒険者ってのは、真っ当な稼業じゃねぇ。
アンタみたいな綺麗どころなら、街中でいくらでも仕事が出来るだろうし、腕っぷしを活かすなら女が必要な用心棒なり、何なりがある。
わざわざ冒険者になる必要はねえ、やめときな」
男の忠告は、普通の人間に対してのものであれば真っ当なものであった。
しかしクリスティーナの場合、身分を保証するものが何も無い為、他の選択肢では時間や手間が掛かり、かつ辺境を根拠地としなければならない。
将来的には王国に帰ることすら視野に入れるなら、実力さえ認められれば最低限身分を保証してくれる冒険者ギルドが最も好都合であった。
「忠告、感謝致しますわ。
しかし、わたくしにとっては冒険者が最も都合が良いんですの、お節介は無用ですわ」
「そこまで言うなら……言うだけあるってところ、見せてもらおうじゃねえか?」
クリスティーナの言葉に、男が言い返し、そして男の言葉に反応して他にも複数の冒険者が席を立ち上がり、クリスティーナを取り囲んだ。
これが悪意ではなく、あくまでも冒険者稼業はこういうものだぞ、と最初に知らしめる洗礼に過ぎないと、クリスティーナも理解は出来ているが、相手をするのは億劫だった。
「……はぁ、仕方ありませんわね」
背負った熊の魔物の死骸を下ろし、冒険者達を相手しようと身構える寸前。
「――その勝負、待ちな!」
騒動を制止するように声が掛かる。
「ギルマス!? なんでこんなことぐらいで出張って……」
クリスティーナに忠告をしてきた男が、呼び掛けた声の主の方を向いて驚く。
男にギルマスと呼ばれた人物――ギルドの受付カウンターの奥から姿を見せた、身長が二メートル弱ほどありそうな、赤毛の大男が、クリスティーナを見る。
「嬢ちゃん、冒険者になりたいんだって?」
「ええ、そのつもりで来ましたわ」
「名前は」
「クリスと申します」
「分かった、書類の記入はいい、オレが適当にやっといてやるから、今日の所は収めてくんねぇか?」
「まあ、そういうことでしたら」
言って、クリスティーナ――改め冒険者『クリス』は、他の冒険者達と戦う意思を霧散させた。
後に――この時、クリスと一触即発の状況にあった男はこう語る。
「ああやって、見るからに冒険者なんか向いてねぇってヤツはよぉ、最初に揉んでやるのが通過儀礼っつうもんなんだよ。
それで嫌んなって、他の仕事に就こうと躍起になるもよし、揉まれた腹いせでこなくそ、と気合い入ってくれるでもよし。
まあ、たまーにあるアレのつもりで絡んだだけで、あのギルマスが出てくるもんだから、なんでだよ、とは思ったよ。
けどまあ、その後すぐにそれで良かったって思い直したね。
――なぜかって?
戦ってもいねぇのに、ブルっちまってたからよ。
気付かねえうちに、覇気だか殺気だか知らねぇが、そういうもんに当てられて、腕がブルブル震えてたんだよ。
これから戦うかもしれねえ、そんな気の持ちよう一つで人様をここまでビビらせるヤツ、とてもじゃないが手を出すべきじゃなかったさ。
ヤツが気を抜く瞬間まで、それに気付けなかった俺が言うのも何だが、そういう直感は冒険者なら大事にすべきだね。
それに、直後にアレだぜ?
どう見ても化け物揃いの、魔物の素材の数々だ。
貴族様が買い集めたって、あんなに揃うこたぁねえだろうな」
☆一口メモ☆
フロリーナの綴りはFlorina。




