第一話 辺境都市
場所は変わり、帝国。
魔の樹海と最も近い場所に築かれた辺境都市『ファウンダリア』。
魔の樹海と接する地域であることから、強力な魔物が無数に生息しており、この魔物を狩ることを仕事とする『冒険者』なる者が集う都市。
魔物の侵入を防ぐ、分厚く高い防壁に囲まれた都市の、幾つかある入場門の一つ。
帝国の旗――向かい合う龍虎の間に十字の紋章が入った紅い旗のはためく門前で、一つの騒動が起こっていた。
「……で、アンタは結局、ここに来るのは初めて、と」
「ええ。
旗を見るに、帝国の都市ではありますのよね?」
入場審査を担当する兵士の言葉に応えるのは――獣の革で身体を包んだ、謎の美女。
金色の長い髪を、元は質の良かったであろう布の切れ端で高い位置に縛り止めた、言葉遣いから察するに貴族であろう女性が、あり得ない格好で入場審査を受けに来た。
何が疑わしい、と挙げ連ねるのも馬鹿らしいぐらい、怪しい人物であった。
「ああ、ここは帝国の辺境都市『ファウンダリア』、冒険者の街だよ」
「まあ、冒険者!」
兵士の言葉に、美女は喜色ばんだ声を上げる。
「冒険者といいますと、魔物を討伐して、まだ見ぬ土地を切り開いていくことを生業としている、あの冒険者でしょう?
丁度よいではありませんか、わたくし、その冒険者になりたくてここに訪れましたのよ?」
「今どき本当に冒険する輩は珍しいがね、その認識で合ってるよ。
……で、辺境に来るのも初めて、他の都市で冒険者をしていたわけでもない、身分を証明するものも無い、そんなアンタが、冒険者になりたいから入れてくれ、って?」
入れるわけがないだろう、と言いたげな兵士が、しがし美女の背後にある『モノ』に視線を向け、口を噤む。
美女の背後には――二体の魔物の死体が転がっていた。
一つは、夜闇のように真っ黒な毛並みが美しい、豹に似た魔物。
もう一つは、岩とも鱗とも取れるような、頑強な無数の角質に身を包んだ、大熊に似た魔物。
どちらも辺境では――正確には、魔の樹海に近い領域で活動する冒険者にはよく知られている、凶暴な魔物であった。
強さ、そして生態から討伐困難とされており、年に何度か見つかるものの、実際に討伐しようと思えば複数の冒険者が集まり、計画立てて討伐するような魔物である。
それを……身一つで山から降りてきたような風貌の美女が、二体も屠り、ここまで持ち込んでいる。
武器すら持たないのなら、素手で斃したのだろう。
こんな不審者は追い返せば良い、という考え方もあるが、それで暴れられた場合にタダでは済まない相手でことは明らかである。
逆説的に言えば、それで暴れるような危険人物であれば、入場審査で弾く弾かないに関わらず、多大な被害が出る。
諸々の事情と、最終的に起こり得るトラブルを鑑みて、兵士が選んだ結論は……。
「……入場には金貨一枚が必要だ」
中間の選択肢、払えないなら入らないでくれ、という、消極的な門前払いであった。
「金貨一枚以上の価値がある物品でもよろしいんですわよね?」
「ああ、構わないが……」
「では、後ろの黒い方でも構いませんわね?」
美女の言葉に、兵士は目を見開く。
「そ、そいつを!?」
「一匹丸ごと差し上げますわ」
金貨換算でも、何十枚になるか分からない、希少で価値ある魔物の死体である。
然るべき場所で換金する手間を考えても、お釣りがくる。
損得勘定を脳内で素早く巡らせた兵士の口から出てくる言葉は一つ。
「ようこそ辺境へ!」
「ありがとうございますわ」
こうして美女――クリスティーナは、無事辺境都市ファウンダリア内へと入場することが出来たのであった。
なにぃ!? 謎の美女はクリスティーナだったのか!?
気付かなかったぜ……




