第十六話 VS近衛騎士
夜会から3日後。
聖女サリアの暗躍もあり、クリスティーナの実家による横槍が間に合うこともなく――近衛騎士は、無事彼女を『魔の樹海』へと護送完了した。
「降りて下さい」
近衛騎士を率いる団長が、護送馬車の中で大人しくしているクリスティーナに呼びかける。
クリスティーナは――自分で馬車のドアを開いて降り立つ。
「ここが……かの有名な『魔の樹海』ですのね」
「いいえ、まだ入口に過ぎませんよ。
我々でも、もう少し入り込めば危険ですから」
団長が言うと――スルスルと、自然な動きで十数名の近衛騎士がクリスティーナを取り囲む。
「すでにお分かりでしょうが……皇太子殿下から、貴女を確実に殺せと命令を下されています」
事実を淡々と告げる団長。
これに、クリスティーナは笑みを浮かべる。
「でしょうね。
でなければ、本来王城に務める近衛騎士の皆さんを、こんなに大勢引き連れて来るはずがありませんもの」
分かりきっていたことだ、と言わんばかりのクリスティーナの言葉に、団長は返す。
「ならば、抵抗は無駄だということもご理解いただけますね?
我ら近衛騎士、軍閥の人間ではありませんが伊達でもありません。
貴女を取り囲んでいるのは、中でも選りすぐりの騎士達です。
いくら武勇に優れるブーケンシャー家の令嬢とはいえ、勝ち目はありません」
近衛騎士の団長として、客観的な事実を告げる。
――王城を守る、と言われれば、現場仕事でないから実戦経験の浅い、つまりは弱いのが近衛騎士である、と考える者も居るが、それは間違いである。
彼らに具体的な仕事は無い。
無いからこそ――王都、王城の最高の環境で、日がな一日訓練に明け暮れる。
同等に優れた才能を持つ、同等に訓練漬けの異常者同士で切磋琢磨を繰り返す。
確かに実戦経験は少ないだろう。
だが――実際のところ軍人の、その殆どが実戦らしい実戦を経験することはあまり無い。
死線をくぐるような過酷な状況での運用など、愚の骨頂であり、基本は数で勝り、損耗のあり得ない戦力で事に当たる。
実戦経験の少なさ、という意味では、近衛騎士とそれ以外の騎士や兵士に大きな乖離があるわけではない。
であれば――日頃そのすべてを訓練に費やし、いつか来るとも分からぬ時に備え、身体を鍛え上げ続けた近衛騎士こそが、最も高い密度で武力を高めた騎士であると言えよう。
更には――近衛騎士は単に騎士としての戦力だけでなく、戦闘用の精霊術の使い手でもある。
王国の象徴たる精霊術の、戦いに活かす術を研究し尽くした戦闘集団。
それこそが、王国近衛騎士という、名誉ある称号を戴く戦士。
そうと分かっていて尚、クリスティーナに慌てる様子も、怯える様子も無い。
不審がる団長は、さらに言葉を重ねる。
「ご実家の助力を期待しているのかもしれませんが、この辺りに誰も居ないことは精霊術で確認済みです。
貴女を助けるものは、何一つ無いんですよ――抜剣!」
団長の掛け声で、近衛騎士達は一斉に剣を抜く。
だが――クリスティーナは、ふふふ、と笑いをこぼす。
「――ああ、ごめんなさい、バカにしているのではありませんわ。
魔の樹海まで、随分と強行軍でわたくしを連行なさったのに、その疲労すら伺えませんもの。
皆さんの練度が相当に高いことは重々承知ですし、状況が理解できていないわけでもありませんわ。
ただ、二つ間違っていることがありましたから」
言うと、クリスティーナはゆっくりと――優雅に、団長へと歩み寄る。
「動くなッ!!」
「一つ、頼るものが無い。
そんなことはありえませんわ。
鍛え上げたこの身体が、わたくしの唯一にして最高の味方です」
「……ハッ!!」
眼前に迫るクリスティーナに対して、団長は剣を振り下ろす。
だがクリスティーナは悠々と――剣を避けることすらせず、まるでキャッチボールでもやるかのように、刃を片手で掴んで止めた。
「二つ、抵抗は無駄。
むしろ何を勘違いされたのか分かりませんが……。
この程度では、わたくしに傷一つ付けることは出来ない」
言った瞬間――クリスティーナは刃が皮膚に食い込むことすら気にせず、掴んだ剣を握り潰す。
ガキャッ! と音を立てて剣が折れる。
近衛騎士に支給される剣は国内でも最高品質の剣であり、本来なら同格以下の剣と打ち合っても、刃毀れすらしない、精霊術による加護を受けた代物だ。
それをまさか――素手で握りつぶされるとは、あまつさえ刃が食い込み切り傷を付けることすら出来ないとは、団長も予想外であった。
「ッ、総員、掛かれッ!!」
団長は飛び退きながら指示を出す。
他の近衛騎士達は、一斉に剣を――自らの精霊術で更に強化を施して、クリスティーナへと襲い掛かる。
「――こういう分かりやすいのが、一番ですわね」
クリスティーナはぺろり、と唇を舐め、近衛騎士を迎え撃つ。
☆一口メモ☆
強さランクは、グリフォン<近衛騎士団長。
つよいね。




