第十二話 衝突する二人
救貧院の施設は大きく三箇所に分けられる。
まずは精霊教の礼拝堂、次に高齢者が収容される住居、そして最後に救貧農場の三箇所だ。
クリスティーナは最初に礼拝堂へと視察に向かった。
前世の記憶だと、こういった施設を運営する悪の司祭が自分だけ贅沢をしている、というのはお約束の一つでもあったのだが、現実にはそのようなことは無かった。
今、クリスティーナを案内する司祭自身も、救貧院の運営だけでなく、精霊教の修道士として修行をする身でもあり、痩せた身体からは節制の程度が見て取れる。
礼拝堂も贅沢品と呼べるようなものは無く、様々な精霊を模したと思われる複数の石像を除けば、設備はどれも質素なものであった。
「ブーケンシャー様は、軍閥の方でありましょう?」
「ええ、それが何か?」
「軍閥の方は教会の活動に文句のある方も多いのですが、特に王国の支援を削るよう求められることがありますので、是非救貧院の実態をお伝え頂ければ、と」
救貧院の運営に使われる資金の殆どは王国の支援によるものとなっている。
これを軍閥の人間は無駄なものとして削るべき、と考えることが多い。
クリスティーナはそこまで強行的な意見は持っておらず、司祭の懸念も理解出来る。
だが、支援そのものに貧困を解決する力はない、というのもクリスティーナの考えであった。
この場で約束できることは何もなく、返答に困ることとなった。
続いてクリスティーナが訪れたのは、救貧院の入居者が住まう住宅地。
精霊術を扱える者は農地へ出ているものの、多くはそういった技能の無い老人である。
よって、救貧農場にて作業を出来る体力の無い人々の多くが、この時間でも居住地で暇をしている。
そこで暮らしぶりを直接伺おうとしたクリスティーナであったが……タイミングが悪いのか、今日は特殊な状況下にあった。
「本日は、聖女様が炊き出しに来ておられるのですよ」
住宅地に向かう途中、司祭から不意を突くように言われた言葉にクリスティーナは驚く。
「彼女が?」
「ええ、国の支援もカツカツですから、入居者の皆さんも普段から満足に食べるのが難しいんですが。
そこで聖女様が、私財を投じて炊き出しをしてくれるものですから、皆この日ばかりは笑顔になれるというものです」
司祭の言葉に、クリスティーナは顔を顰める。
根本的な原因は、農産業の経済価値が不当に下落していることにある。
でなければ、農業をしている当人達ばかりが食うに困る、等という歪な状況は生まれない。
非常時の支援として炊き出しは正解かもしれないが、特にこの地域の住人は高齢者に限らず、貧しい状況が慢性化、常態化している。
現状で繰り返し炊き出しを行うということは、より支援に依存する状況を招き、長期的に見て首を絞める形にもなりかねない。
と――貴族令嬢として学んだ常識も含めて、クリスティーナは判断した。
救貧院の入居者にとっては嬉しい支援なのかもしれないが、それが続くのはむしろ不憫である。
仮にも貴族令嬢、それ相応の教養ある者であれば、無策の支援を繰り返すだけではダメだと分かりそうなものだが――と、クリスティーナは考える。
(――いいや、むしろ分かっていてやっている可能性も高いですわね)
と、クリスティーナは警戒を新たにする。
「ほら、あちらで炊き出しをしていますのが、聖女様御本人です」
司祭に案内されるがまま、視線を向けると――そこには先日の夜会で初めて顔を合わせた少女、サリアが居た。
クリスティーナが批判的な視線を向け――これに気づいた様子のサリアは、笑みを湛えてクリスティーナを見返した。
二人が、初めて明確に対立する瞬間であった。
聖女ってのはだいたい悪い奴なんだ、僕は詳しいんだ。




