出会い
背後から声がした。
「何してるんだ、勇さん」
俺は振り返った。
その瞬間。
心臓が止まりそうになった。
男が立っていた。
鋭い目。
整った顔。
長い髪。
そして――
見覚えのある姿。
「……土方」
「何?」
「土方……歳三?」
男は怪訝そうに眉を寄せた。
「そうだが」
俺はその場に座り込んだ。
「…………」
「勇さん?」
「…………」
「おい」
俺は頭を抱えた。
祖父の話。
本で読んだ歴史。
新選組。
幕末。
全部が頭の中を駆け巡る。
そして一つの結論にたどり着いた。
「……タイムスリップ?」
土方が眉をひそめた。
「たいむ……?」
「いや、何でもない」
俺は立ち上がった。
待て。
落ち着け。
俺は15歳。
現代日本に住んでいた。
祖父の葬式。
蔵。
刀。
そして――
幕末。
俺は歴史を知っている。
そして今。
俺は近藤勇だ。
「…………」
俺は土方を見た。
祖父が大好きだった新選組。
その副長。
土方歳三。
俺の胸が高鳴った。
――すごい。
本物だ。
本物の土方歳三だ。
「土方さん!」
「何だ」
「握手してください!」
「…………は?」
俺は右手を差し出した。
土方は俺の手を見た。
俺を見る。
そして――
「勇さん、頭でも打ったか?」
「違います!」
「なら、なぜ握手なんかする」
「いや、だって土方歳三ですよ!?」
「俺がそうだが?」
「本物だ!」
「当たり前だろ」
土方は本気で困っていた。
俺は感動していた。
祖父が聞いたら泣いて喜ぶ。
俺は歴史の教科書から飛び出してきた人物と話している。
「土方さん……」
「何だ」
「沖田総司って、今どこにいます?」
「総司?」
土方が怪訝な顔をする。
「あいつなら道場だ」
「道場……!」
俺は思わず走り出した。
「おい、勇さん!」
「沖田に会ってきます!」
「待て!」
俺は廊下を走った。
頭の中には一人の名前。
沖田総司。
新選組最強の天才剣士。
しかし――
俺は知っている。
沖田総司は若くして死ぬ。
結核。
そして。
俺は決意した。
「……絶対に」
拳を握る。
「絶対に死なせない」
それが、この世界で俺が最初に立てた目標だった。




